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「父母会戦記:保育園がなくなる日」今仲希伊子

第十回 待機児童全国1位の船橋で起きていること

 放課後の子どもの居場所は?
 船橋市では、小学生の放課後の居場所として、全55小学校施設内に「学童保育」(船橋市では「放課後ルーム」:以下「ルーム」)と「放課後子供教室」(船橋市では「船(ふな)っ子教室」:以下「船っ子」)を設置し、公設公営で運営している。
 ルームは「児童厚生施設等の施設を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図る事業」(児童福祉法第6条2)である。ルームは子どもにとって、第2の家庭と言えるような存在でなければならない。
 他方、船っ子は「子どもが放課後を安全安心に過ごし、多様な体験活動ができるよう、地域住民等の参画を得て、放課後等に全ての児童を対象として学習や体験、交流活動などを目的とした事業」である。船っ子へは、子どもの判断で「行く・行かない」を選択でき、好きな時間に帰れるのが特長だ。
 国は2007年、「放課後子どもプラン」として、両者を「一体的あるいは連携」させる方針を示した。2018年の「新・放課後子ども総合プラン」では、女性の就業率上昇を受けて、さらに促進させる目標を掲げている。しかし「子どもの最善の利益」は、目的が異なる両事業の一体化では成し得ず、それぞれが充実・発展を目指すべきではないか。

 船橋は待機ワースト1位:市民は知らず……
 2022年、船橋市のルーム待機児童数は311人で全国ワースト3位だった。
 そして、翌2023年度は338人となり、全国ワースト1位になってしまった。
 2024年2月議会で、市から緊急対策として「放課後児童ルーム待機児童解消プラン」(以下、プラン)の報告があった。
 ただ、一般への公表は半年経った8月9日。全国ワースト1位であることを市民のほとんどはいまだに知らない。私はなんども市に対して公表を求めてきただけに残念だ。
 しかも、このプランは、新たなルームの整備を伴わず、受入数の拡充を掲げているだけだ。
 現場の声、保護者の声、そしてなにより1日の大半を過ごす子どもの視点を欠いた、単なる待機児童解消を目的としたプランだと言わざるを得ない。
 以下、具体的に検討してみよう。

 ▼解消プラン対策①「学校施設のさらなる活用」
 放課後は授業で使わない家庭科室等の特別教室を、ルームとして利用するというもの。ルーム専用教室でも対応に追われているのに、さらに特別教室でのルームの設営・準備・片づけ作業が追加され、職員が子どもと向き合う時間はさらに減る。一時的かつその場しのぎの利用で「生活の場」としてふさわしいと言えず、子どもは休まらない。
 ▼解消プラン②「受入上限数の弾力的な見直し」
 国の運営指針において生活集団としての適正規模を40人以下にするとされている。
 船橋市全104ルーム中、適正規模である40人以下のルームはわずか5ルーム(4.8%)にとどまる。今でも定員105名、定員90名という大規模なルームが存在している。
 このような現状で受入上限数の弾力的見直しをして、子どもたちを詰め込むことは断固反対だ。規模が大きいと、職員の目は行き届かない。注意が増え、管理しがちになる。職員は疲弊し、子どもは行かなってしまう。詰め込みはすべてにおいて悪循環を生むだけだろう。
 ▼解消プラン③「近隣公共施設の活用」
 児童ホーム(児童館)の活用である。児童ホームは一度帰ってから遊べるが、待機児童となっている子どもは、学校から児童ホームへそのまま通所を可とするというもの。しかし、そもそも児童ホームの開所は9時~17時までであり、土曜日以外は同じ時間に学校に船っ子があり、どれだけ効果があるのか疑問である。まして児童ホームは月曜は休館である。
 ルームになんとか入ることができても、大人の目が行き届かず、子どもが嫌な思いやつまらない時間を過ごすなら、ルーム本来の目的を果たしているとは言えない。

 学童は職員も大幅に不足
 待機児童解消には、新たな施設の整備が求められる。しかし新たな「ルーム」をつくっても職員が集まらない現状がある。
 2024年4月現在、ルームの必要配置職員数から実配置職員数を引くと、職員不足数は169人にも上る。ルーム職員で慢性的な職員不足が続く一方で、船っ子職員は充足している。ルーム職員の給与の方が若干高いが、勤務時間や業務内容が大きく異なるからだ。


 図1は、2023年4月1日時点でのルームと船っ子職員の状況だ。船っ子の開設は2016年なので、開設7年目。ルーム開設は2000年なので開設23年目となる。
 船っ子は、当初から勤務している職員を含めて勤続年数5年以上が6割と高く、また年代も40~50代が中心。一方のルームは、ベテラン10年以上と3~4年未満までの職員が二極化している。勤続年数の二極化は組織の健全性、効率性、モチベーションの低下、業務負担増などを生む。ルーム職員が長く働き続けられる職場、専門性を持った職員を増やすことが大切だ。そしてなによりも仕事に見合った処遇改善が欠かせない。

 民間活用のねじれ
 船橋市の学童保育(放課後ルーム)は市長公約により民間から公設公営へと舵を切った。
 保育園は待機児童対策として民間活用を積極的に進め、私立園21園(2002年)から102園(2024年)と5倍近くも増えたが、ルームは54ルーム(2000年)から104ルーム(2024年)にとどまる。
 ルームは保育所とは異なり法的根拠や行政責任が曖昧であることから、待機児童数、指導員の資格や配置基準などが自治体の考え方次第になってしまう。また、保育園に通っていた子どもが必ずしもルームを必要とするわけではなく、1年間通い続けるとも言い切れず、運営は不安定にならざるを得ない。
 未就学児のみならず、学齢期の子どもにも保育を受ける権利があるにもかかわらず、国は、待機児童「数」を減らすため、登録条件を厳格化することを検討しているようだ(読売新聞 2024年8月5日付)。
 近年、共働き世帯は7割に上る。子どもたちの放課後や学校休業日が充実し、安全に過ごせ、保護者が安心して働ける居場所を必要とする子どもの数は、待機児童数だけでは計れない。さらに、小学生の放課後に限らず、学校の部活動が見直されていく中で中高生の居場所も喫緊の課題である。(了)

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著者略歴

  1. 今仲希伊子(いまなか・きいこ)

    1980年生まれ。京都女子大学大学院現代社会学科公共圏創成専攻修了。船橋市立金杉台保育園父母会役員、船橋市公立保育園父母会連絡会会長、船橋市子ども・子育て会議委員などを経て、2019年から船橋市議。

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