白水社のwebマガジン

MENU

「父母会戦記:保育園がなくなる日」今仲希伊子

第十二回 「操作」される待機児童数!?

 待機をめぐる「操作減」

 2023年度全国ワースト1位だった船橋市の学童保育待機児童数は、2024年度は119人減の219人となった。4月時点では2023年度379人→2024年度402人、23人「増」であったのに、国に報告する5月1日時点での待機児童数を基準とするため、昨年比「減」となる。
 しかし、これには理由があった。4月末、市は入所希望した高学年保護者に今後の利用希望の確認を行い、待機を続けるか、待機をあきらめるか、長期休みのみ希望するかを選択させ、待機をあきらめた人、長期休みのみ希望した人を待機児童数から外したのである。
 これにより、国に対しては、調査で辞退した人数と長期休みのみ希望した人数を引いた数字を報告し、その後さらに調査で長期休みを希望したが入れなかった人数を7月に足す、という「操作」による「減」が行われていた。果たして意味があるのか。

基準日の謎

 保育所待機児童数の基準日は4月1日であり、新年度に合わせた基準日設定に理解できるが、なぜ学童保育は5月1日だろうか。児童福祉法において「放課後児童健全育成事業とは、小学校に就学している児童であって、その保護者が労働等により昼間家庭にいないものに、授業の終了後に児童厚生施設等の施設を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図る事業」としている。
 小学校就学前は対象に含まない数を把握するということなのか。しかし、3月31日まで保育所を必要としていた家庭が、学童保育に入所できずに待機児童となった場合、最も困るのが4月1日から学校始業、給食開始までの期間である。この時点で、どれだけ困っているのかを見るべきではないのか。
 児童福祉法改定により2015年4月より「必要な情報の収集(21条の11)」を市町村が行うことになったが、情報収集の具体的な方法は定められておらず、待機児童数の考え方についても自治体ごとに任されている。
 民間学童を利用したい場合は直接申し込むため、各自治体では申請状況の把握ができていないことも推測される。
 言うまでもなく、申請せずに一人で留守番している子どもはカウントされない。各自治体によって算出方法も異なり、待機児童の数だけをもって善し悪しを判断できるものではない。本当に必要な子が利用できているのかが重要である。

 自治体間の差

 先に述べたように入所基準は各自治体によって異なる。船橋市では、船橋市放課後ルーム条例施行規則に審査基準が定められており、これをもって入所可否を判断し、決定している。
 例えば、就労の場合「就業時間が午後2時を超える日が、月~土曜日、日曜日を除く月12日以上ある場合」などで点数が高い順に入所が決まるのだ。船橋市の問題点として「通勤時間」「日曜出勤」を加味していない点を挙げられる。基準において「終業時間」「月~土曜日の勤務」で判断していることから、通勤時間が長い、日曜出勤する保護者は入所に不利になっている。
 「通勤時間」については、浦安市、市川市、千葉市が入所基準として勘案している。柏市では通勤時間を加味していないが入所条件を週16時間以上就労、月の合計就業時間が64時間以上、就労時間が午後2時以降など、保育所等利用調整基準と同様の基準を細かく設定している。
 船橋市は「通勤時間や時間外勤務時間は、勤務先の就労証明書などで客観的に確認することができないため」とする。しかし学童保育は、先に述べたように「保護者が労働等により昼間家庭にいない小学校に就学している児童」を対象としているのだから、保護者が家庭にいない時間が基準であるはずである。働き方の多様化が求められる中、休日も様々であり、フレックス制が進んでいる。通勤だろうが就労だろうが、放課後にどれだけ「保育に欠けるのか」の視点が大切なはずである。

 ***

 待機児童が多いから入所は無理だと申請せずに留守番している子どもは待機児童ではないのか。夏休みなど長期休み中に放課後子供教室(船橋では船っ子教室)や児童ホーム、習い事、学習塾など学童保育以外で過ごす子どもは待機児童ではないのか。待機児童問題は国が待機児童数を「必要な情報収集」としての「基準」を設定し、把握して解消を目指さなければ解決しない。
 ただ「学童期」は就学前と異なり、放課後の過ごし方に様々な選択肢がある。必要なニーズは地域性、学校、学年、さらにはその年の子どもたちによっても異なることが難しい。公園、公民館や図書館などの公共施設、民間や地域住民の協力も得て「子どもたちの最善の利益」と安心安全な育ちを見守ることも欠かせない。

バックナンバー

著者略歴

  1. 今仲希伊子(いまなか・きいこ)

    1980年生まれ。京都女子大学大学院現代社会学科公共圏創成専攻修了。船橋市立金杉台保育園父母会役員、船橋市公立保育園父母会連絡会会長、船橋市子ども・子育て会議委員などを経て、2019年から船橋市議。

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2025年1月号

ふらんす 2025年1月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

白水社の新刊

声に出すフランス語 即答練習ドリル中級編[音声DL版]

声に出すフランス語 即答練習ドリル中級編[音声DL版]

詳しくはこちら

白水社の新刊

まいにちふれるフランス語手帳2025

まいにちふれるフランス語手帳2025

詳しくはこちら

ランキング

閉じる