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「父母会戦記:保育園がなくなる日」今仲希伊子

第三回 民営化の効果は実は不明!? 行政が隠すカラクリ

 保育園は増えたが、公立は減った……
 この20年間で全国的に保育園は激増した。もちろん待機児童を解消する狙いがそこにあったが、かつての〈公的責任〉による保育から〈民間〉による保育への大転換があった。船橋市も例外ではなく、ここ20年で私立園が約3.5倍増の94園(2021年)となった一方、公立園は1981年以降1園も増えていない。
 船橋市公立保育園の「民営化」は、2003年4月1日、船橋市が中核市に移行したことに伴い、「行財政改革推進室」が創設され、その年の6月4日に「船橋市行財政改革審議会」を設置、公立保育園をはじめとする福祉施設の民営化を検討したことにはじまる。同年10月に発表された「財政健全化プラン」には、公立保育園の民営化が盛り込まれていた(ふなばし♪保育園だいすきネットワ~ク『船橋市公立保育園「民営化」反対運動8年間の取組み』2013年)。
 このように行財政改革の一環として公立保育園が民営化するのは全国的な流れだ。待機児童対策が喫緊の課題であっても公立保育園は減少し続けたのだ。2000年に13064カ所あった公立保育所は2020年7741カ所に減少している(全国保育団体連絡会・保育研究所編『保育白書』2022年)。

 1園民営化で6600万円節約???
 「船橋市保育のあり方検討委員会一次報告書」(2001年)によると、公立1園(定員120名)移管(民設民営)すると年間6600万円削減と試算している。
 背景には、小泉改革がある。すなわち、▽指定管理者制度の導入(2003年)▽公立保育所運営費の国家負担金廃止と一般財源化(2004年)▽公立保育所施設整備費国庫補助の一般財源化(2006年)――である。私立保育所については、現在も運営費や施設整備費の国庫補助があるため、自治体は保育所経費の財源確保のために公立保育所の民営化を進めるという事情もある(『保育白書』)。
 船橋市の2021年度の決算見込みの事例を挙げてみよう。

図1 保育園の運営に関する費用の構成(連絡会提供)

2021年8月3日時点(赤線枠は今仲)

 図1はわたしたち連絡会が取得した資料をそのまま添付している。これだけ見ると、たしかに公立運営費は91%が市負担であり、国や県による補助もなく、公立保育所は市にとっては「金食い虫」に見えてしまう。一方の私立は、公立(27園)の約3.5倍の園数でも市費はそれほど変わらない。加えて、国や県負担があり、市の負担は少ないことが分かる。
 この資料は毎年取得しており、形式も変わらない。こうした資料の裏付けもあり、保育制度について知らない父母は「公立園運営にはお金が掛かってしまう、だから市は民営化したいのだ」と考えてきた。これほどの負担であるなら民営化もやむを得ないと考える人もいただろう。

 実は民営化の効果は分からない
 ただ、こうした数字を鵜呑みにしてはいけない。
 東海自治体問題研究所の中川博一氏は、保育に関する一般財源化による影響を検証し、どこの市町村も公立保育所の一般財源化で国の負担はなくなった、財源は消えたという理解であるが、公立保育所は地方交付税で、私立保育所は国庫補助金で交付されてきた。したがって、公立保育所の保育運営費が一般財源化されたことによる(負担増による)民営化に根拠がない、と強調する。
 ただし、地方交付税不交付団体では、一般財源に地方交付税が交付されないため、私立保育所の方が自治体負担は少ない(「公立保育所民営化の理由を「一般財源化」に求めるのは不当-地方財政制度の仕組みから解明」kourituhoikuenippanzaigen.pdf (fc2.com))。
 ちなみに、船橋市は地方交付税交付団体である。
 図1に戻ろう。下段の「私立保育園における保育サービスの内訳」を見ると、市単独で実施される保育サービスが30億にも上っている。国からの公定価格(赤枠の左側)からはみ出す部分、保育士確保策として船橋独自で行う「ふなばし手当」などによる費用が大きい。ふなばし手当とは、船橋市内の保育園で働く保育士に施設からの給与に加え、船橋市から年間約58万円(2021年度)を支給する制度。このほかにも保育士確保策、私立園運営支援も行われている。
 他方、公立保育園の運営費が高い大きな要因は、人件費だという指摘がなされる。

図2 公立保育園の人件費(連絡会提供)


 図1では船橋市の公立運営費は約57億円、図2では人件費が約53億円となっており、53億円もの人件費に驚くが、この部分も地方交付税が措置されている。
 ちなみに、財政課からどの程度、財政措置がなされているか確認できなかった。現時点では、民営化による財政的効果は不透明なのである。
 ふつう市民にはこうした内情は全く分からないし、想像もつかない。知らないのが悪いのではなく、行政は市民目線で説明し、情報を開示すべきだ。これでは、だまされているような気にもなる。なぜ民営化を進めるのか、ますます分からなくなった。

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著者略歴

  1. 今仲希伊子(いまなか・きいこ)

    1980年生まれ。京都女子大学大学院現代社会学科公共圏創成専攻修了。船橋市立金杉台保育園父母会役員、船橋市公立保育園父母会連絡会会長、船橋市子ども・子育て会議委員などを経て、2019年から船橋市議。

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