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「父母会戦記:保育園がなくなる日」今仲希伊子

第十三回 放課後子供教室と学童:所管の違いと役割分担

母親の8割は働いている

 2024年5月時点で、船橋市の市立小学校に通う子どもだけで約31,000人。
 2023年度船橋市子ども・子育て支援に関するアンケート調査によると、小学生を持つ母親の76.5%が働いており、87.2%が働きたいと希望している。2013年の調査では働いている母親は57.9%だったので、今後もさらに増えることが見込まれる。
 子育て環境の変化、働き方が多様化する中で、子どもに放課後(保護者等が不在の間)をどう過ごさせたらいいか。すべての子育て世帯が直面する課題といえる。未就学児はもとより仕事と子育ての両立が難しくなる「小1の壁」だけではなく、少なくとも小学生の間は高学年でも親の関わりは欠かせない。
 平日放課後18時頃までなら留守番や習い事でやり過ごすことができたとしても、夏休みはそうはいかない。夏休みをどう乗り切るかは、低学年の子どもに限らず、高学年になっても大きな課題だ。
 保護者からこんな声が上がっている。
 ・家で留守番できたとしても、ずっとゲームや動画を見て過ごしてしまう。
 ・1日中、子どもだけで過ごすことは不安だ。
 ・習い事を組み合わせて1日をアレンジしている。
 ・同級生の保護者間が交代で子どもを預かって乗り切った。

二つの預け先と所管の違い

 第十回(https://webfrance.hakusuisha.co.jp/posts/8245)で書いたように、船橋市は学校内に放課後子供教室(船っ子)と学童(ルーム)を全小学校内に設置し、公設公営で運営している。どちらも国の制度に基づくものだ。2000年以降、公設公営とした学童(ルーム)に対して、放課後子供教室(船っ子)にはあらためて説明が必要だろう。
 放課後子供教室(船っ子)は2014年から始まり、当時の担当部長は設置目的として次のように議会答弁している(2014年第1回定例会)。
 「児童福祉法改正によるルームの対象年齢拡大に伴う対応がある中で放課後子供教室を新たに実施し、放課後ルーム事業と連携して、総合的な放課後の子どもたちの安全安心な活動場所の更なる拡大を図る」。
 一方、国は放課後子供教室についてこう述べている。
 「子どもたちの安全・安心な活動拠点(居場所)を設け、地域の方々の参画を得て、学習活動やスポーツ・文化芸術活動、地域住民との交流活動等の取組を実施することにより、子どもたちの社会性、自主性、創造性等の豊かな人間性を涵養する」。
 二つの預け先は、放課後子供教室(船っ子)が教育委員会所管で、学童(ルーム)がこども家庭部所管と行政の縦割りの中で分かれており、このことが様々な問題を引き起こしている。所管の違いが生み出す顕著な事例をいくつか見てみよう。

夏休みの開室時間:放課後子供教室(船っ子)

 2024年8月に実施した船っ子利用に関するアンケート調査[i]では、夏休み等長期休暇中の現状9時開室の前倒しを求める声が多く寄せられた。
 学校があれば、始業に合わせて8時前に子どもは登校するが、9時開室では仕事に間に合わないからだ。しかし市は、放課後子供教室(船っ子)は「就労支援」を目的とした事業でないから開室時間の前倒しは行わない、と頑なだ(就労支援は学童(ルーム)が担う)。ただ、船橋市の開設目的は学童(ルーム)の受け皿を想定したのであるから、当初から8時開所すべきだっただけではないか。実際に、利用目的の多くが就労している間の子どもの居場所であり、学童(ルーム)就労入所基準に満たない家庭の受け皿になっている。


写真 9時開所を伝える放課後子供教室(船橋市父母会連絡会提供)

不可解な学童(ルーム)入所基準

 学童(ルーム)の入所基準も問題だ。船橋市の就労によるルーム入所基準は「日曜日を除く6日間の中で3日以上就労し、就労時間は14時を超えて以降にどれだけ働いているか」である。
 保護者からは悲鳴が上がる。
 ・パート勤務で9時14時の場合、学童(ルーム)の基準に沿わない。
 ・週2回の就労でルームの保育料を払うほど、働いていない。働けない。
 ・共働きだが夫が夜勤の仕事で特殊なため、学童(ルーム)に入れない。
 帰宅時間や就労時間が同じでも、9時15時まで6時間就労だと学童(ルーム)に入れて、8時14時までの6時間就労で通勤1時間の家庭は入れない。片道2時間以上の通勤時間しか加点に考慮されないため、点数がボーダー上にある家庭は、日曜勤務や長距離通勤の家庭が先に落ちてしまい、通勤距離が短くて土日休みの方が通るという現象が起きている。
 2024年5月時点の学童(ルーム)在籍児童出席状況によると、入所後間もない5月の1カ月間で4日未満出席者が166人おり、そこには待機児童がいる学童(ルーム)も含まれる。市は「様々なご家庭の事情により放課後ルームを放課後の児童の居場所の選択肢としたいという保護者の要望に応えるため」だとするが、月4日以下の利用でもやり過ごせる家庭が入所基準をクリアする一方で、必要な家庭がやむなく待機児童となっている状況は改善すべきだ。

安易な一体化には反対

 船橋市の小学生約3万人の就労支援の受け皿が学童(ルーム)だけでは無理な話であり、放課後子供教室(船っ子)も受け皿として充実を図ることが重要である。
 国は、学童(ルーム)と放課後子供教室(船っ子)の「一体型」[ii]を推進してきたが、私は安易な一体化には反対である。目的と性質が異なる事業の線引きが必要だ。放課後子供教室(船っ子)は「学習機会、工作、体験学習など」の場、学童(ルーム)は「第2の家」としての生活の場である。
 私自身が鍵っ子の小学生で、週末でさえ習い事先が居場所の日々を過ごした。毎日が「学習」「遊び」では疲れ「休息」も欲しかった。パートタイムで仕事を持つ家庭の子どもと、両親がフルタイム仕事の家庭の子どもとでは、必要な子どもへの支援が違う。家庭環境により自宅では休めない子もいる。見守りではなく、保育を必要とする子がいることは忘れないで欲しい。

図版 放課後子供教室と学童の違いを説明する市のパンフレット


[i] 令和6年8月1日~30日「船っ子教室のご利用に関するアンケート」回収数は3,351件、回収率は放課後子供教室の登録者2万8,587人に対し約11.7%。

[ii] 令和6年3月29日付け「令和6年度以降の放課後児童対策について(通知)」で「校内交流型」へ呼称変更

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著者略歴

  1. 今仲希伊子(いまなか・きいこ)

    1980年生まれ。京都女子大学大学院現代社会学科公共圏創成専攻修了。船橋市立金杉台保育園父母会役員、船橋市公立保育園父母会連絡会会長、船橋市子ども・子育て会議委員などを経て、2019年から船橋市議。

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