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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第59回 5月20日の観察

 明け方、こちゅみがいなくなる夢を見た。わたしはなぜか沖縄の、窓や扉が開いている家にいて、それでもこっちゃんなら外に出ることはないと思っていたのに見当たらなくなってしまうのだ。土地勘のない場所で必死に小太朗を探した。街にはキジトラ猫がいっぱいいたが、駆け寄るとどの子もこちゅみじゃない。友人に応援を頼みたいのに、手元にはWi-Fiに繋げないiPadしかなくて電話できない。そのとき、近所で怖くて大きな生きもの(多分、熊のニュースを見すぎている影響で)が徘徊しているというニュースが流れる。こっちゃんかわたしがそれに襲われる前になんとかしなきゃ、と気持ちばかり焦る。

 おかあさん、そろそろ起きなくていいの、とRに声をかけられて目が醒めた。こっちゃんがいない、探さないと! 寝ぼけて叫ぶわたしのところに、Rに抱っこされたこちゅみが連行される。再会に感動して号泣しながら猫を抱くと、目を見開いてイカ耳になったこちゅみは爪を立てた後脚で、わたしの腹をおもいきり蹴飛ばして逃走した。

 キッチンでコーヒーを飲んでいると、マンチカンでしょ、マンチカンだよな‥‥と遠くのほうで一人ごちているRの声が耳に入る。マンチカン?と尋ねると、こちゅみには絶対マンチカンの血が入っているはず、という話だった。丸い目と丸い顔、小さめの身体に短い足。ムチッとした体格の子が多いのは、食いしん坊な猫種だかららしい。なるほど、そう聞けば確かにこちゅみのルックスにも共通点はある。でも、いくらこっちゃんの足が短いからってマンチカンほどではないぞ、と反論すると、ほら、とRがiPhoneの画面を差し出す。スクリーンにずらり並んだマンチカンの写真を見せながら、ちゃんと短足なのは2割だけらしいよ、と解説してくれる。

 へえ、そうなんだ。ねえ、こっちゃんはマンチカンなの? 足元の絨毯で香箱を組んでいるこちゅみに尋ねると、急なアテンションに驚いたか細めていた目がぎゅんっと丸く、大きくなる。わたしを見つめながらイカ耳になってるが、なぜだ? それもマンチカンの特徴なのか?

 自分のiPhoneで「マンチカン」と検索してみる。たくさんの画像のなかからキジトラの子の画像だけ大きくし、順に眺める。確かにどの子も、どことなく小太朗に似ている。そしてとうとう、さすがにこれはこっちゃんでしょ!という子の写真にぶち当たる。フローリングの床に寝転び、うちと同じメーカーの加湿器にしがみついているその子はどうみても小太朗で、例えば家から脱走したこちゅみを血眼になって探しているとき、道端にこの子がいたら喜んで連れ帰ってしまうかもしれないぐらい似ている。マンチ‥‥コツ‥‥ってなんかメンチカツみたい。まぁ、腹のあたりはソースをかけたメンチカツっぽくもある。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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