白水社のwebマガジン

MENU

「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第37回 6月23日の観察

 前回、東京が梅雨入りした話をしたばかりなのに、原稿の校正を待っているあいだに夏になってしまった。これを書いているいまは夜中で気温も25℃ぐらいに落ち着いているが、昼間は今日も30℃を越えた。先週の火曜は、東京で35℃近くまで気温が上昇してニュースになった。なにが驚くって、いまがまだ6月の半ばだってことだ。小学生だったころ(80年代初頭)はまだ、8月でも20℃後半ぐらいの日が普通だったような。30℃や31℃の最高気温が十分ニュースだった気がする。

 こうした事態を想定して、5月のうちに2階寝室のエアコンを新調した。それまで使っていたのは息子が生まれる前に購入した23年ものだ。こちゅみがうちに来て初めての夏にもエアコン買い替え案はいったん浮上したものの、金銭的余裕がなくて先延ばしにしていた。古い家電は電気代も高く、仮に留守中に停電してエアコンが止まってしまったら、こちゅみが危ない! というわけで近所の家電量販店を偵察したところ、東京都がゼロエミポイントというキャンペーンをおこなっていることを知った。その助成金とお店のポイントで、予算内に収まるエアコンをゲット。

 新しいエアコンより、エアコン設置のためにソファを覆った養生シートにテンションを爆アゲていたこちゅみ。窒息などの事故を避けるため早々にビニールを撤去すると、おもむろに三段ケージの上によじ登り、最上階のベッドで寝始めた。熱い空気が溜まりやすい天井付近も、エアコンがあればひと安心。猫たちが苦手とする冷気から逃がれられるのも良い。

 ここ一週間、こっちゃんは少食だ。まさか病気‥‥?と思ったが、友人たちの猫も軒並み食欲が落ちているらしい。この数ヶ月で+300gを記録した体重が、今日の計測ではー100g。朝ごはん抜きはデフォルト、昼はちょびちょびと夕方まで食べ、夜には嘘のようにメシを猛烈催促してくる。ご飯をねだるこっちゃんは常に真剣、鬼の形相&暴力(押し&噛み付き)で母を恫喝する。でも、声は可愛いし顔はちっちゃいしで結局根負けして甘やかす。彼の脇にきゅるるんとスタンバるオハナのほうが腹黒い。今日はこのコンビに、300円が半額になった鮭のアラを奪い取られた。

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2025年7月号

ふらんす 2025年7月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

白水社の新刊

フラ語フレーズ集、こんなの言ってみたかった!

フラ語フレーズ集、こんなの言ってみたかった!

詳しくはこちら

白水社の新刊

声に出すフランス語 即答練習ドリル中級編[音声DL版]

声に出すフランス語 即答練習ドリル中級編[音声DL版]

詳しくはこちら

ランキング

閉じる