第4回 2月4日の観察
先週末のこと。小太朗の様子がおかしいとGが言うので、しばらく気をつけて見ていた。確かに奇妙だ。バタタタタッ、とすごい速さで尻尾を動かしたかと思うと、本人がその動きに驚いて振り向く、を繰り返している。まるで獲物みたいに尻尾を捉え、舐めたり噛んだりする。後ろ足もピーン!と突っ張ってせわしなく舐めるし、背中はビクンビクン波打っている。見ているだけで不安になったが、とりあえずその日は様子をみることにした。しかし、夜中になっても荒ぶりは収束しない。寝ているさまもいつもとは違って、疲労困憊の果て落ちた、という感じ。そして、起きるとまた同じことを繰り返す。これはただことではないぞと翌日、病院に連れて行った。
ストレスかもしれませんね。(HPによれば)自身も大の猫好きらしいかかりつけ医が言う。最近、何か変わったことはありませんでしたか。そう聞かれたが、11月にオハナが来て以降、大きな変化はない。ご飯も同じものだし、猫砂も変えていない。計量してもらった体重は減っていたが、体型的にはいまぐらいでよいとのこと。ご飯が足りないストレスかしら、それとも……。いくら考えても釈然としないまま帰宅する。
Gに結果を報告しつつ、二人で思い当たる原因を考えてみた。パタタ……と尻尾を震わせては走り回るチュミヌを、ハラハラしながら見守る。ひとつだけ思い当たったのは、かつて先住犬のために購入したベッドの位置だ。抱っこされるのもしんどそうだった晩年の彼女を見かねて買った、低反発ウレタンフォーム製の犬用寝具なのだが、2週間も使わないまま持ち主が旅立ってしまった。状態の良いそれを試しにこちゅみに与えてみたが、一年半ほとんど使われることなく猫用ケージの屋根の上に放置されたまま、現在にいたる。先日、Gがそれを2階から1階に下ろし、エアコンの風が当たる場所なら硬い床でもお構いなしに寝転がるオハナの身体の下に置いてやったのだった。
ベッドがいたく気に入ったオハナは、ケージで寝る代わりにその上にいることが多くなった。使っていないテーブルの下に置いたベッドで寝るオハナの真上に、わたしのお気に入りクッションと毛布でこしらえた、こちゅみの寝床がある。ときどきのっそり起き上がっては、たんっ、と床に降り立ち、爆睡するハナちゃんのベッド周りをゆうゆうとパトロールするこにゅみ。まさか、自分のベッドを使われていることが嫌で、ウロウロせずにいられなかっただけだったとか?
いや、それが原因かどうかも、実はよくわからない。数日後、空いた段ボール箱でこっそりおしっこし始めた彼を連れ、再び病院に行った。先生は結石を疑い、こっちゃんは猫生初の尿道カテーテルを経験した。途中で突っかかる感じがあったとのことで、尿管を水で洗い流してもらう。尿検査でも多少の所見があったので、ストルスバイト尿症かもしれないらしい。経過観察を言い渡されて診察は終わったが、食い下がって先生に質問する。あの、様子ってだいたい何日ぐらい見ましょう? もし、この症状が改善しなかった場合、やっぱりストレスでしょうか。いつもは冷静沈着な雰囲気の先生が、マスクの下でにやり、とした。わからないんですよね、話が聞ければいいんですけど。そりゃあそうだ、あたり前田のセサミハイチ。だって、教えてくれないもん。思わず膝を打ちたくなる名回答に、不安な心がふっと緩む。
それから一週間、こっちゃんは前ほど尻尾と戦わなくなっている。寝起きにほんのちょっと追いかけるだけ。そうなっても、撫でてあげると落ち着く場合が多い。1月の半ばぐらいから始まった換毛期も、不快なのかもしれない。文鳥を飼っている友人が以前、換羽期の鳥はめっちゃ機嫌が悪い、と言っていた。あるいは結石のせいかもしれないし、オハナとの縄張り抗争的なものがストレスなのかもしれないが、「みゃおわお(ママ)、めしくれー、はやくー、めしー、めしー」と、稀にみる大雪の都心部からなんとか帰還したわたしに向かって、こちゅみは今日も忖度なしで、元気に文句を言い続けてくれる。