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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第35回 5月26日の観察

 ちょっとした時間にも、YouTubeやインスタで猫の動画を見てしまうわたし。猫がただただ可愛いサムネイルに導かれて、面白い模様の猫の出オチ感溢れるVlogや先住犬に育てられる子猫の成長記、茶トラの愛くるしさを紹介するハプニングダイジェストなどを漫然と眺めて暮らしていると、猫おばさんの嗜好性を学習したAIがさらに猫動画をサジェスチョンしてくる。保護猫活動家の番組もよく見る。いまハマっているのは、猫2匹と暮らす格ゲーマーさんの動画と、保育園規模で子猫から老猫まで保護するご夫婦の動画。耳に優しく響く九州弁で猫に話しかける彼らの声を聞くのも、深夜の楽しみの一つだ。

 先日、おすすめをクリックしたら母猫と赤ちゃん猫を育てる保護主の動画になった。お母さんがガリガリでー、という話の流れで、ご飯を食べる母猫の姿が映る。……おや? なんとなく不安な気持ち。うーん、この不穏さはなんだろう。リピート再生される動画を何度も眺める。そのうち、違和感の理由になんとなく思い当たった。

 それは多分、母猫が食べているドライフードのせいなのだった。自身の授乳経験から、うわぁ水分不足で乳腺炎になりそう……と不安になった。あの当時、そのことに自ら気づくことができず、ずいぶん大変な思いをした。多ければ日に15回以上乳を吸われる日々、ご飯を毎食3膳おかわりしてもガリガリに痩せていったが、ならば、と餅米やクリームのような高栄養食品を摂ると、とたんに乳腺炎を起こした。おっぱいは栄養も豊富だが、それ以上に水分でできている。だから普段の2倍でも、3倍でも水を飲む必要があることをわたしは知らなかった。ああ、あの若い母猫のカリカリを、お湯でふやかしたい!

 カリカリだけだと十分な水分補給ができないこと、猫のあまり水を飲まない性質と腎臓病リスクに関係があることは獣医さんからも聞く話だ。人がそうなら猫も、授乳中は脱水症状に陥りがちなはず。ましてや一度に4匹ぐらいの子を産むのだから、リスクは人以上なんじゃないか。ところが、授乳する母猫の脱水症状を注意喚起する動画はこれまで見たことがない。なので、言わせてー。授乳中の母猫に水分を!

 ちなみに、こちゅみはストレートの水をほぼ飲まない。だからあるときから我が家ではウエットフードにもさらに加水して与えたり、おやつのチュールやささみ缶にもお水を加えたりして、ものすごい量の水分を体内にぶち込んでいます。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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