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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第50回 1月1日の観察

 元日は毎年、実家で過ごしている。いまや両親も高齢、いつまでこうやって過ごせるのかという考えが頭をよぎらなくもないが、今年も無事に家族で集まることができて嬉しかった。猫との暮らしで困るのは、こんなふうに家族揃って家を空けるときだ。日帰りであれば1日ぐらい置いていくのは問題ない、と猫の諸先輩方は言う。そうか、いつもヒトがいたって邪魔か、とわたしも思う。それでもやっぱりヒトの感覚で、1匹にするのは「かわいそう」な気がする。そんなわけで、我が家では家族全員が留守にする状態を作らない努力が今日まで続けられていて、こっちゃんは最長8時間ぐらいのお留守番しか経験がない。それもやむなく遅くなった1度か2度だけで、長くても6時間以内に誰かしらが家に戻るような予定を組んでいる。

 小太朗には4度目のお正月、弟家族はマル君というマルチーズを連れてくるのでうちもオハナを連れていく、となるとやっぱり今年もこちゅみを連れていこう、という話になった。こういうときのため、昨年も可能な限り「ちゅみ散歩チャレンジ」で準備を重ねてきた。リュック型のケージにこちゅみを入れ、オハナの散歩に同行させるこの挑戦、本人もメッシュの窓からのんびり景色を眺めたりして、そこそこ楽しんでいるように見える。

 昼すぎ、母の和室とリビングを繋げた12畳のスペースに9人+犬2匹+猫1匹が集まった。リュックを部屋に置き、頃合いを見計らってファスナーを開けるとこちゅみはすぐ外に出てきた。部屋の隅のハンガーラックと古い椅子をクンクン嗅いだのち、椅子の下の段ボール箱と服のカーテンの陰でじっとしている。やっぱりかわいそうだったかなと一瞬思うが、若いうちは年に1、2度、実家に限ってならこういう経験もさせておきたい。万が一、いまの家に住めなくなったり大きな災害で避難を余儀なくされたりしても、小太朗をしっかり連れていきたいからだ。

 明日も仕事のGは電車で先に帰宅、帰りの車中は助手席にRが座り、オハナとこちゅみを後部座席に並べた。こちゅみが不安げなのでコンビニで止まり、Rと席替え。ときどき鳴く声はいつものトーンに戻った。家に着き、リュックを飛び出した途端、王者の風格で尻をぷりぷり振りながら居間を横切り、高所からハラヘッタ!ナンカダセ!と強めに要求してくるので安心した。へいへい、頑張ったね偉いね、と言いながらわたしは食事を用意し、あわよくば便乗しようと大きな目で見上げてくるオハナにも、お世話さまでしたとおやつをあげた。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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