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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第51回 1月24日の観察

 火曜日の夜9時過ぎ、オハナを夜間の救急病院へ連れて行った。帰ってきたのは朝の4時前。原稿の締め切りが集中していたこともあり、なんとも慌ただしい一週間だった。

 お正月は元気だったのに、その後いつもとなにか違う感じが少しずつ進行していったオハナ。家族みんなで心配しつつ様子をみていたが、どうにも気がかりで、連休明けに通院したばかりだった。老化に伴うなにかだけれど特定が難しい、というので様子を見ることになり、必要なところは介助しながら散歩や食事を普通にさせた。少し良くなっている気がしたのに、晩御飯のあと首が極端に傾きはじめ、顔が上を向くのにつられて仰向けに倒れることを2、3度繰り返した。さすがに怖くなって、慌てて病院に走ったのだった。

 症状は他にもある。頭が下がり、耳が垂れ、背中が丸まって尻尾が上がらない。もともとキッチンをうろつく癖はあったけれど、視力をほぼ失ったいまは部屋を脈絡なく徘徊しているように見える。粗相も増えて、夜間はオムツを使うことにした。オハナの変化は小太朗も敏感に察知している。ホットカーペットやベッドで眠っていたオハナがむくりと起き出すと「はっ!」という顔をして、オハナが見える位置に駆け足で移動する姿を見かけるようになった。

 オハナをチェックするこちゅみが毎回、ものすごい緊張感を周囲に醸し出すのがおかしくて笑ってしまう。こっちゃんって、こんなに面倒見良かったんだね!とR。わたしも心底驚いている。夜間病院での待ち時間が長くなるにつれ、お留守番をさせているこっちゃんのほうが心配になったが、家に帰るとにゃあ、と玄関で出迎えてくれ、わたしが寝るのを待っていてくれた。

 あれ以来、自分の遊び道具を踏みつけたり、ときどきどこかにぶつかったりしながらあてもなく歩き続けるオハナを、こちゅみはヘルパーさんのように見守っている。いつものように両前足を揃えて、キャットタワーの二段目で目を細めているときでさえ、オハナの爪が床に当たる音がするとキッ!とそちらに顔を向け、心配そうに眺めたり、近づいてちょっくら手を出したり、猫のやり方で心配を表現している。自分が先に寝ていたホットカーペットのベスポジも、オハナがどーん、とやってくるとさっさと譲って、自分はエアコンの真下で温風に当たりながら、ねぶり倒した腕で顔の毛繕いをしている。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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