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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第54回 3月3日の観察

 久しぶりにしっかり雨が降った。こういう日に限ってお米が切れたり、鍼灸院の予約が入っていたりする。ここ数日、オハナに夜中2、3度起こされるので、Rの授乳期ぶりに寝た気がしない。わたしが夜担当、Rは朝担当がなんとなく定着してきたが、明け方の担当は決めていない。いまのところ、気づいたほうがオハナの様子を見にいく感じだが、Rの部屋にはドアがついていて、寝ているあいだは何も聞こえないらしい。結局、ほとんど毎回わたしが降りていき、ついでにトイレも済ませてベッドに戻る。

 今日は冬のように寒い。先週から暖かくなってきて、そろそろ小太朗との添い寝も終わりかなと思ったけれど、まだわたしの左腕を枕にして寝ている。最近、パソコンに向かっていると、しばらくして左肩がしびれてくるので、そのことを鍼灸師さんに伝えたら、それはこっちゃんの腕枕のせいです、と言われた。元猫飼いの彼女によれば、猫との添い寝から来るその症状には病名すらあるらしい。テキパキと鍼を体に置きながら、寝る位置についてこっちゃんとよく話し合うよう諭された。

 隣にいるのだからきっと、ハナちゃんに起こされたみゃおわおが頭の下の腕を引き抜くたび、こちゅみも目を覚ましているはずだ。朝もわたしに合わせて起きることが多いのに、わたしが寝るときは一緒に来ず、明け方に目を覚ますといつの間にか隣にいるこちゅみは、もしかしたらわたしより熟睡できていないんじゃないか。

 先週あたりから、こっちゃんの「おやつくれー」交渉が激しい。オハナがご飯を食べなくなって、ドッグフードのお相伴にあずかる機会が無くなったのだ。新たなおやつ調達のインフラを模索中ですね、でもそれ、冬毛ではなくお肉の丸さでは? そう尋ねたくなる体格にワンナップもしているので、対応が難しい。まんまる顔のくりくりおめめを可愛く細め、牙をチラ見せしながらサイレントニャーを放つあざとコツを抱き上げるとなんかすごい、持ち重りがする……。なんでもかんでもオハナが優先のいま、おおよその事情は理解していてもどこか下剋上に遭った殿の気持ちであるには違いなく、タニタの体重計に二人乗りして許容量を確認しつつ、さまざまなおやつを水で薄めながらあげている。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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