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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第30回 3月12日の観察

 我が家には、その月その週の予定を擦り合わせ、大きなカレンダーに書き込んでいく会議がある。もともと、小さかったRを滞りなくお世話するために始めて、いまはこっちゃんとはなちゃんのお世話を3人でどう割り振るか決めている。

 今月は家族が入れ子式に、活発に家を出入りする予定。そもそも大人3人(+動物2匹)で住むには狭い家なので、誰か一人でも不在にしてくれるとせいせいする。ただ、自分以外に人がいないということはそのまま、家事育児を一手に引き受けることも意味するから悩ましい。まぁ、それはあくまで人間たちの事情で、誰かが長めにいなくなったり、帰ってきたと思えば別の誰かがいなくなったりすることを、こちゅみとオハナがどう思っているのかはわからない。

 3月の頭に出張があり、そのあいだRが一人で動物の世話をした。帰宅した翌日、溜まった洗濯物を選り分けていて、Rのシャツが濡れているのに気づいた。襟袖を手洗いする服用のバケツに入っていたとはいえ、不自然な気がして服を嗅いでみると、やっぱりこちゅみのおしっこの臭いがする。慌てて自室に籠るRを呼んで手洗いしてもらったが、本人はすっかり意気消沈していた。この被害に遭うのはなぜか必ずRの服だからだ。

 粗相はわたしが帰宅した日か、その前日の夜中のもののようだった。二人で理由を考えた結果、次のようなことが考えられた。

 1.風呂場の窓を開けると野良猫の匂いが入ってくるため、風呂の手前の脱衣場に自分の匂いをつけて自己主張。
 2.Rの匂いに自分の匂いを上書きしたくなるような、こちゅみが認識している家族内ヒエラルキーについての主張。
 3.粗相がいつもわたしがいないとき起こっているとすると、みゃおわお不在の寂しさを主張するための行為。

 猫に注意をしても意味がないので、とにかく今後はRの洗濯ものもすべて脱衣かごに入れてもらう、ということで合意形成した。当のこちゅみは、みゃおわおが帰ってきて嬉しいのと、いままでいなかったのはどうしてなの!という腹立たしさが入り混じった気持ちのようで、何だか変なテンションになっている。いつもなら寝ている時間もキッチンのキャットタワーの中段に座り、わたしの顔の真横で、んきゃん、んぁーん、とやたらか細い声で鳴き、悲壮感漂う表情でわたしの罪悪感に訴える。寂しかった……おやつ……くださ……ガクッ(倒れる)、とはならないけれど、確実にそういう演出で食べ物をもらう作戦だ。

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