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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第1回

2023年10月19日の観察

 

 我が家に赤ちゃんのキジトラ猫をお迎えして、今日でちょうど1年。猫領域素人であるわたしのナイーブな楽観主義から始まったこの生活は、まだ会ったことのないその子を「小太朗」と命名するところから始まった。コタという音がその、灰茶色のかわいい生きものに合っている気がして、コタツ(炬燵)かコタロウかでかなり悩んだ末、夏も涼しげな後者を選んだ。「朗」は兄、R氏の名とお揃いにした。ネーミングセンスに、昭和育ちのエッセンスをビシバシ感じる。

 小太朗ちゃんを「コタロウ」と呼ぶ期間のなんと短かったことか。この一年でコタツ、こた、コツ、骨密度、こちゅみ、こてぃあむ、こつまるみ、コッツウォルズ、チュミントス、チュミヌ、こにゅみ、こにゅむ、コリュ、こにゅ丸さま……と、愛称のバリエーションは増殖し続けている。寂しがりやの大人3人分、行き場を失った愛を一心に注がれつつ、大変甘やかされながらすくすくと育って現在は4キログラム。健全な自尊心といくつもの名を持ち、我が家のアイカツ(愛情活動)ヒエラルキーの頂点に君臨するその猫こそ、あの(インスタアカウントでは地味に知られている)こちゅみ氏である。本連載は、自分の属性すべてを持て余しながら暮らす人間a.k.a.長島有里枝が、内蔵されたカメラアイ/愛/Iを全身全霊で彼に注いだ日々の備忘録、のようなものになっていくのではないかな……

 ……のはずだったんだけど、ここにきてまた1名、家族が増えそうな動きがある。劣悪な生育環境からレスキューされた彼女は犬です。まだ正式な名前はないので、うちに来たら「オハナ」と呼ぶつもり。年齢は「7歳以上」(ちなみに、犬は7歳から「シニア」すなわち老犬であると一般的にみなされている)だとのこと。“以上”って。ざっくりしてんな! 生まれた日ぐらいメモっておこうぜ……と呆れつつ、同年代かもしれないことはちょっと嬉しい。犬と猫との暮らしがこの先ちゃんと回っていくのだろうか、という不安はある。でも、過去のいかなる選択もそうであったように、可能かどうかではなくピンとくるかどうかで決めるのがマイ・ルール。1ミリもブレないマイ・レボリューション。それは明日を乱すことだって渡辺美里さんも歌ってた。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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