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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第8回 4月2日の観察(1)

 沖縄に来ている。

 5年前、留学先で出会った親友のミヨは日系アメリカ人で、母方の曽祖父は沖縄県の出身だ。彼女のお母さんが元気なうちに、曽祖父母の生まれ故郷である首里を訪れたいと相談されたのが6年前。それじゃあいっそみんなで行こう、と計画を立てていたのだがいろいろあって、コロナもあって、この春ようやく実現の運びとなった。娘さんの学校の都合で3泊4日と短い滞在だが、うちの両親にRも加えて総勢9名の弾丸ツアー中である。こちゅみとオハナは、Gのおもりがあるのでお留守番を担当。

 通訳や運転手としての役目もあるから、ほとんど好きなことはできないだろうと覚悟していた。それでもささやかながら、楽しみにしているイベントがあった。おなじく首里出身である小太朗様の出生地および関連スポット巡礼だ。6年前は、沖縄から子猫が家にやってくるなんて想像もしなかったから、ツアーが延びていまになったのも運命に思える(←親バカ)。ミヨには失礼ながら、わたしにとってこの旅は「彼女のルーツ探訪<こちゅみのルーツ探訪」の様相を呈している。

 こっちゃんをわたしに託してくれたのは、これまた若かりし頃に仕事を通じて知り合った友人のミホちゃんだ。帰国してすぐ大病をしたときも、シングルマザーとなったときも、写真の仕事をくれ続けた編集者=恩人なのだが、ここにきてこたちゅみと暮らす幸せまでいただいてしまい、もはや感謝もお礼も一生しきれない。現在は首里で配偶者と素敵なレストランを経営しながら、上の階に二匹の保護猫と暮らし、編集者としてのお仕事も続けている。そんな彼女が、家の外から聞こえる子猫の大きな鳴き声に気づいたのは2022年の夏。台風が来るから、と様子を見に行ってみたところ、塀の向こうの木の根元にちっちゃな子猫を発見したそう。保護したその子こそ、我が家のこちゅみ様である。ミホちゃんには以前から、沖縄来たらチビ太(と呼ばれていた)を見つけた場所に案内するよ〜と言われていたが、ひとたび猫と暮らし始めると出張以外の余計な長旅をする気がなかなか起こらなくなる。つまり、この旅がまさに絶好のチャンスなのだった。ちゅみぬ氏が発見された聖地も見たかったが、あの子がうちに来るまでの1ヶ月半、猫界のしきたり&愛情表現をみっちり教えてくれた友人宅の先住猫でほぼ育ての親、ナキさんに会ってみたかった。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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