第20回 10月4日の観察
留守のあいだにエアコンが止まり、断熱効果ゼロの木造家屋二階で猫が深刻な熱中症に陥るかもしれない。そんな不安に苛まれた夏だったけれど、10月の声を聞いてからはなんだか呆気ないほど、普通に秋めいている。
相変わらず、朝ごはんを食べないこともある小太朗だが(そして、そんな日はやっぱり毛玉を吐く)ウェットフードにすれば、じゃあまぁ、とりあえず……という感じでちょっと口をつける。調子のいい日(毛玉がつかえていない日)なら、「めしーめしー」と少々うるさいほど鳴きながら近づいてもくる。尻尾をぴんと立てたまま、台所に立つわたしの足のあいだを(狭いのに)通り抜けたり額から脇腹にかけて身体をこすりつけたりして、ご飯を催促する。
ダイニングテーブルでパソコンに向かっているときは、冷蔵庫とわたしの椅子のあいだの床にちょこんと座って声をかけてくる。呼ばれて振り向くと、小さな前足をきっちり揃えて、上目遣いにじいっとこちらを見つめているこっちゃんがいる。本人がわかってやっているのか知らないが、そのいじらしいさまをいったん見てしまうとそのまま仕事に戻るのは難しい。でももしこの段階で何もしないと、彼のほうが痺れを切らして立ち上がり、軽く爪を立てた掌で腕や太ももを押してくる。それでも集中し続けるわたしと視線が合わないと、最後の手段でテーブルに飛び乗る。そして雑然と散らかるもの──本とか参考資料、とりあえず置きっぱなしになっているいろいろ──の上を、わー、こらこら、やめてこっちゃん!とわたしが騒ぎ出すまで、わざと(のように見えるのだが)踏みつけながら歩く。
こにゅみはいつも、なにをするにも一生懸命(にみえる)。そのひたむきな姿に心を動かされ、ますます好きになり目が離せない。なぜ、彼らはこうも人を操る術に長けているのだろう。それなのに勘の鈍い人間は、彼らの望みを半分も理解できないまま、検討はずれなことばかりお返ししているんじゃないか、と思えてしかたない。