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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第31回 3月23日の観察

 先週の金曜から始まった個展のため、このところずっと小太朗の絵を描いていた。と言っても、まっさらな紙の真ん中にドーンと描くのではなく、額装された写真の余白に鉛筆でちまちまと描き込むスタイル。パッと見はカリフォルニアの風景や生態系を脅かす外来植物の写真だけれど、よく見るとこにゅみが額縁に囲まれた世界のあちこちにいる。

 初めて個展をしてから31年、これまでたくさんの展覧会に参加し、新作を発表してきた。ただ、そうした作品はほとんど売れてこなかったし、多くはたった一度展示したきり出番がなく、延々と倉庫で眠っている。今回そういう子たちを倉庫から引き摺り出し、額を開け、いまの気分や考えをコラージュやドローイングにして加筆、新しい作品に生まれ変わらせている。結果、こんなにもこちゅみだらけの展示になるなんて思わなかった。

 制作中はたいていラジオやYouTubeを流し聞きしているのだが、先日YouTubeでジャクソン・ギャラクシーの公式チャンネルと彼のTV番組「猫ヘルパー〜猫のしつけ教えます」の動画を発見してしまった。彼が日本の猫業界でどれほどの有名人なのかわからないが、わたしにとっては憧れの人、猫師匠と呼んでもいい存在だ。こちゅみをうちで引き取ることが決まってすぐ購入した、まだ見ぬ子猫と暮らすための猫指南本が彼の著書『ジャクソン・ギャラクシーの猫を幸せにする飼い方』だったのだ。

 猫のあらゆる問題行動を理解し解決するギャラクシーさんの考え方は、猫へのリスペクトに溢れている。猫の“モジョ”(自尊心)をなにより大切にし、猫の問題行動を人の困りごととしてではなく、困っている猫からのSOSとして扱う態度を崩さない。Rの保育園コミュニティから教わった子育ての考えかたと通じるところがあって、学びが多かった。

 動画で見るギャラクシーさんはとても感じがいい人だ。そのうえ、とってもチャーミング。ネットで「猫ヘルパー」と称され、TVでは多くの家庭に出向いて猫の諸問題を解決するのだが、猫を思って泣いてしまうこともあってますますファンになった。意識を向けすぎないよう敢えて英語の番組を流していたはずが、ギャラクシーさんの動画は内容が気になりすぎて作業を中断するか、音声をオフにするかしかなくなってしまうのでちょっと困る。まだ彼のことを知らない人はぜひ一度、動画を見て。英語がわからなくても、とっても優しそうな彼が猫と遊ぶ姿を見ているだけで、心が和むはずだから。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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