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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第16回

8月8日の観察

 今日で、小太朗は2歳になりました。

 元野良猫だから、病院で告げられた週齢から逆算してわたしが誕生日を今日に決めた。赤ちゃんこちゅみを保護した美保ちゃんの猫たちがゾロ目の誕生日だったので、あやかってお揃いにしたのだ。世界猫の日と同じとは知らず、被ってしまったのだがまぁ、よしとする。

 午前中、外に出たついでに、事前に調べたペットショップに立ち寄った。ところが、電話であると聞いていた猫用ケーキが実は、どれも犬用……。電話口とは違う声の店員さんに尋ねたら、「猫も大丈夫だと思うが人間も一緒に食べられる犬用」となんだか不安になる回答が返ってきた。途中下車までして立ち寄ったのに残念だったが、愛しいこちゅみの健康には代えられない。こうなったらもう、自作するしかない!

 帰り道、iPhoneで「猫 ケーキ 手作り」と検索。結局、猫は肉食動物。犬のケーキにお芋や野菜が使われているのに対し、肉と魚でできているものが圧倒的に多い。こっちゃんが来てから、我が家の冷凍庫にも鶏むね肉が常備されている。皆さんどうやら、細かくしたささみやレバーを寒天で寄せてケーキに成形しているようなので、オハナ用と合わせてふたつ分のチキンケーキを作ることにした。参考までに、材料は以下。

・鶏むね肉 1/2枚
・魚のだしパック(塩が添加されていないもの)でとっただし汁 120ml 
・かつおぶし(塩が添加されてないもの) ひとつかみ
・粉寒天 適量
・ギリシャヨーグルト(無糖・無脂肪) 適量

 鰯や鯵の煮干しでとった出汁で、薄くスライスした鶏肉を茹でる。肉を取り出して出汁に粉寒天を加え、1分ぐらい沸騰させてから火を止める。出汁が冷めてとろみがついてきたら、小さくサイコロ状にカットしたむね肉を戻す。鰹節をひとつまみふわっと入れた小さめのプリンの型に、寒天液を注ぐ。このとき、お肉の量がどっちも平等になるように気をつけてください(ケンカを避けるため)。

 鶏肉を茹でる時点でかなり大騒ぎした二匹は、ケーキを冷やすあいだにうたた寝をしたりとマイペース。水気を切ったヨーグルトを絞り袋に詰めてデコレーションしたケーキをテーブルに置き、iPhoneのビデオを回して誕生日のうたを歌った。さあどうぞ!とRが小太朗をリリースすると、お皿に近づいたこっちゃんはクンクン匂いを嗅ぐばっかりで食べようとしない(オハナはガツガツ食べ始めたのに!)。大皿に移し、スプンで崩して食べやすくしたら完食してくれたが、やっぱり誕生日なんて人間界のことでしかないなと思い知った。今年のプレゼントはおもちゃじゃなく、ペットショップで買った鰹節と猫用歯ブラシ2本セットだ。ごはんのあと、新しい歯ブラシでちゃんと歯を磨いてくれるこっちゃんは偉い。さすが2歳。歯磨きのご褒美に、いつものペースト状おやつをあげる。結局、わたしもこっちゃんもたぶん、いつも通りが一番楽しい。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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