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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第24回 12月8日の観察

 我が家のやんちゃくれ、こちゅみ氏(推定2歳4ヶ月)の観察記録をつけ始めてから、今回で丸一年。ひょえ〜っ! 時間が経つのってなんて早いんだろうか。ついでに言うと、もうすぐ一年も終わってしまいますね。

 今年は、三種の哺乳類で共同生活という初めてのことに挑戦した。共同生活以外にも、それぞれが自分なりの「新しい環境」と向き合う場面があり、改めて振り返るとかなり濃い一年だったように思う。わたし自身は、更年期特有の身体の兆候をいよいよ感じ始め、なんとなくずっと疲れている状態を日々やり過ごしている。困りごとと言えばそうだが、自分の意思に反して身体がわけのわからない暴走をする感じ、思い出せる限りでは妊娠や授乳のとき以来のことなのでちょっと楽しくもある。

 オハナとこちゅみにとっても、この一年は大変だったはずだ。オハナは去年、保護団体にレスキューされるような生活から抜け出したばかりなのに、その後人間のおうちを転々としなくてはならなかったわけで、心がぐるぐる忙しかったと思う。いっぽう、うちで暮らして一年、可愛がられの頂点に君臨していたこちゅみも、ナワバリに新顔が登場して先行きを不安に思ったかもしれない。

 オハナが来た日、居間を見渡せる階段の中腹からじーっと、湿り気ある眼差しで新入りを見下ろしていたこちゅみ。夏が終わるぐらいまでは、ハナに対するマウント行動が激しいときもあり、このまま不仲でいくんだろうか……と不安に思ったものだ。でもこの冬、テーブル下のホットカーペットが稼働し始めると、去年はケージに留まりがちだったハナもそこで過ごすようになった。いまでは、いつの間にかやってきたこちゅみと並んで、のびーっと眠る姿も散見できる。

 日々の営みに追われて人がどれほどあくせくしても、二匹のマイペースさとまっすぐな感情表現は、人間が注力することのどうでもよさみたいなものを暴いてしまう。彼らは「みゃおわお今日はとり胸肉を茹でるか」問題に日々関心を寄せ、お肉ゲットのために結託したり、逆に戦ったりする日常を形成して、わたしを笑わせたり、イラつかせたりする。来年もきっと、遠くに出かけてもすぐふたりに会いたくなって、ホテルの部屋で写真を見ながらわたしはせっせと似顔絵を描いちゃうんだろう。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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