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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第25回 12月21日の観察

 冬の台所はしっかり寒いのに、お肉CHODAI!問題が激アツの我が家。料理のたび、肉の匂いを嗅ぎつけたこちゅみ&ハナみ(漫才コンビ…)が、オレにもわたしにも食わせろと圧をかけてくる。二匹のあまりのうるささ&こちゅみの丸い体躯をなんとかすべく、ひっそりと対策を検討中だ。

 夕食にはたいてい一品、お肉の入った料理を用意する。蒸し鶏や麻婆豆腐、豚汁など、そこまで肉肉しい献立というわけでもない。野菜などの具材を切り終えたところで、半解凍させた鶏胸肉や豚コマを冷蔵庫からとり出すと、小さきものたちがわらわら集まってくる。とりわけこちゅみは、2階のバリバリベッドの上からでもお肉を嗅ぎつける「お肉センサー」の持ち主。生肉を察知すると、んなお!と遠くで勇ましい声をあげ、お尻をぷりぷりさせながらタンタンタン……と足音を響かせ、階段を降りてくる。わたしにはそれが「いま行くぜ!」と聞こえるので、ちょ、呼んでないし!と身構える。こちゅみは音もなく近づくと、見事な筋力で助走もなくしゅたっ!と床からダンボール製のキッチン見渡し席に飛び乗る。恐る恐る振り返ると、つり目を少し細めた不機嫌そうな美しい顔で、心を射抜くような視線を送ってくる。そうやって人を釘づけにしておきながら目を逸らし、なにひとつ興味なんかなさげに前脚を舐め始める。これこそがこちゅみ氏王道のおねだり作戦である。

 無視して調理を続けると、今度はハナちゃんが足元をうろつき始める。鳴きこそしないが横方向の動線を阻む動き、期待を込めた目で見上げる仕草がじわじわとボディに効く……。高みから観察していたこちゅみが、自分の作戦をご破算にしかねないと思うのか床に飛び降りて、オハナにプロレス技をかける。食べ物のことになると譲らないオハナも、ほとんど歯のない口でこちゅみに軽く噛みついて応戦する。こら、やめなさい!と料理の手を止めて仲裁に入る。

 仕方がないので、彼らの肉を小さな鍋で茹で、お皿に冷ます。そのあいだの小太朗が一番うるさい。にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、と肉をあげるまで鳴き止まない。あげても、もっと欲しいといってアイランドに飛び乗って悪さをしたり、わたしの脚で爪とぎしたりする。結局、根負けしてあげすぎてしまう。さて、どうしたものかと悩んでいたとき、Mr.ギャラクシーの「猫ちゃんが一番好きなおやつは、言うことを聞いて欲しいときにとっておく」という教えを思い出した。そんなわけで先週から、爪切りや歯磨き、ブラッシングのご褒美としてのみ、お肉は貰えることになっている。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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