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「猫ちゅみ観察記」長島有里枝

第58回 5月5日の観察

 家事をしながらいろいろな猫YouTubeを試聴してきたが、なかでも好きなのが「にこねこ」チャンネルだ。福岡県で保護猫活動をするご夫婦「にこママ」さんと「にこパパ」さんが地域のボランティアさんとも連携しながら、お外で暮らすのが難しい猫を「にこねこ保育園」に迎え入れ、里親さんが見つかるまでお世話する日常が描かれる。

 背景に流れる優しい音楽と、どんな猫にも穏やかに語りかけるにこママさんの声のコンビネーションに心が凪ぐ。大変な状態で保護されるのは、主に生まれたて~月齢数ヶ月の子猫たち。彼らが危機的状況を乗り超え(られないことも少なくないが)元気になり、可愛さを振り撒いて遊びたおす姿に、カメラを回すにこパパさんが思わず「可愛い〜♡」と感嘆の声をあげる。誰に対しても「この子すっごい美形よね!」と大えこ贔屓を発動するさまも微笑ましい。そんなお二人の人柄がわたしは大好きだ。猫には優しくても、その周辺にいるヒトにも寛容な活動家ばかりじゃない。ギャラクシー師匠もそうだが、にこママさんとにこパパさんが猫周辺のヒトを責めたり批判したりするのを聞いたことがない。授乳期の猫や病気のある猫を引き受けるお二人も相当大変なのに、他者の大変さをまず思いやれるのってすごいと思う。

 にこねこチャンネルを見ていると、一人ぼっちになってしまった子猫や捨て猫ってこんなにいるのかと驚く。2、3年前まではうちの近所にも外で暮らす猫が少なくとも6、7匹いた。最近は見かけないあの子たちが、保護されたのだったらいいなと思う。YouTubeやテレビの動物番組のおかげで野良猫の保護が大変だということはよくわかったし、安易な気持ちで保護するなという人たちの考えも理解できた。でも、もし赤ちゃん猫が道ばたにいたとして、安易に手を出すもんじゃないと見ないふりすることなんてわたしには絶対できない。拾わなきゃよかったと思ったり、飼えないと判断することになったりするとしても、目の前の命が危険に晒されていたらきっと後先なんか考えられない。

 にこねこ保育園に影響を受け、我が家でも万が一の準備を進めておくことにした。オハナちゃんの給餌用シリンジと一緒に、赤ちゃん猫用の小さなシリンジをネットで注文した。こちゅみ用のヤギミルク(無くても困らないのだが)も、いざというとき赤ちゃんにあげられるから常備することにした。そんな子が来たら、こちゅみはきっと受け入れてくれる。自分もそうやって拾われ、ナキさんはじめ近所の猫たちに可愛がってもらって大きくなったのだ。使う予定のないシリンジは食器棚の引出しにしまい込まれ、ヤギの粉ミルクはこちゅみが夜な夜な、ナイトキャップがわりにぺちゃぺちゃやっている。

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著者略歴

  1. 長島有里枝(ながしま・ゆりえ)

    東京都生まれ。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2015年、武蔵大学人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。2001年、『PASTIME PARADISE』(マドラ出版)で木村伊兵衛写真賞受賞。10年、『背中の記憶』(講談社)で講談社エッセイ賞受賞。20年、写真の町東川賞国内作家賞受賞。22年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会学芸賞受賞。23年、『去年の今日』で野間文芸新人賞候補。主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、著書に『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『Self-Portraits』(Dashwood Books)などがある。

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