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中条志穂「イチ推しフランス映画」

映画『ヌーヴェルヴァーグ』


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© JeanLouisFernandez

監督:リチャード・リンクレイター Richard Linklater
ジャン゠リュック・ゴダール:ギヨーム・マルベック Guillaume Marbeck
ジーン・セバーグ:ゾーイ・ドゥイッチ Zoey Deutch
ジャン゠ポール・ベルモンド:オーブリー・デュラン Aubry Dullin

2026年7月10日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国順次公開

配給:AMGエンタテインメント

[公式HP] https://nouvellevague-movie.com/

 ジャン゠リュック・ゴダール監督『勝手にしやがれ』はいかにして作られたか? 『6才のボクが、大人になるまで。』のリチャード・リンクレイター監督が、『勝手にしやがれ』の舞台裏と、ヌーヴェル・ヴァーグの時代を生きた映画人たちを鮮やかに甦らせる。

 1959年。映画誌「カイエ・デュ・シネマ」で映画批評を書いていた28歳のジャン゠リュック・ゴダールは初の長編映画を手掛けようとしていた。仲間のフランソワ・トリュフォーのデビュー作『大人は判ってくれない』はカンヌ映画祭で高い評価を受け、ゴダールもヌーヴェル・ヴァーグの波に乗り遅れまいと焦っていた。ゴダールは、トリュフォーの原案を条件に出資するというボールガールの提案を受け入れる。こうして、主人公にジャン゠ポール・ベルモンド、ヒロインには若手人気女優のジーン・セバーグを起用し、『勝手にしやがれ』の撮影が始まる。だが、リハーサルもなし、あらかじめ脚本も渡さないという、ゴダールの即興の演出法にスタッフは困惑し、ボールガールは撮影の先行きが見通せず怒り出す。紆余曲折の果て、なんとかラストシーンまでこぎつけるが、セバーグが演技を拒否する事態が起こるのだった……。

 いまや伝説となったラストシーンを含め、『勝手にしやがれ』の製作過程をすぐそばで見るような臨場感に溢れた映画である。

【シネマひとりごと】

 映画とは虚構の時間を再構成するメディアである。だが、リチャード・リンクレイター監督は、現実の時間の経過を映画の中に閉じ込めようとする。代表作『6才のボク…』は少年の成長を12年にわたって実際に撮影し、1本の映画に仕立てた。また、監督の常連俳優イーサン・ホークとジュリー・デルピーの「ビフォア三部作」は9年ごとに同じ男女のカップルを追って、20代から40代までの二人の現実の変化を生々しく描き出した秀作である。これらの作品を見た観客は、虚構の物語の中で現実の時間の流れを目の当たりにし、自分も映画の登場人物と同じだけの時間を生きてきたという、時の流れの容赦ない一面に気づかされる。

 そしていま、リンクレイターは映画史に残るであろう壮大な映画(ミュージカル「メリリー・ウィー・ロール・アロング」の映画化)を製作中だ。実際に20年の歳月をかけて撮影するという気の遠くなる計画で、完成は監督が80歳近くになる2039年頃らしい。原作のミュージカルは、1970年代の中年男女の悲哀に満ちた姿から始まり、物語は徐々に時間を遡って1950年代の彼らの若き希望に満ちた姿で終わる。フランソワ・オゾン監督の『ふたりの5つの分かれ路』も、あるカップルの別れから出会いを、時間を逆行して見せたが、物語の中でリアルな時間は経過していない。一方、リンクレイターの来るべき新作は、リアルな時間の経過を逆転させて見せる。しかも撮影期間は20年という無謀ぶり、こんな監督はどこにもいない。映画は何でも自由に撮れるというヌーヴェル・ヴァーグの革命精神にほれ込んで本作『ヌーヴェルヴァーグ』を作ったというリンクレイターだが、彼もまた、映画という第七芸術にさらに新しい波を巻き起こす一人に違いない。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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