映画『12か月の未来図』
映画『12か月の未来図』
© ATELIER DE PRODUCTION - SOMBRERO FILMS -FRANCE 3 CINEMA - 2017
+ 監督・脚本:オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル Olivier Ayache-Vidal
+ フランソワ・フーコー:ドゥニ・ポダリデス Denis Podalydès
+ キャロリーヌ:レア・ドリュッケール Léa Drucker
2019年4月6日(土)より岩波ホールほか全国順次公開
配給:アルバトロス・フィルム
[公式HP]http://12months-miraizu.com
ある真面目な教師が、パリの名門校から郊外の移民ばかりの中学へと送りこまれる。その必死の奮闘をユーモア豊かに描き、観るものに希望を感じさせる秀作である。
パリの名門、アンリ4世校の中年教師フランソワは、有名作家を父にもつブルジョワ家庭の出身だ。ある日、父の出版記念会で出会った女性に教育改革論を語ったことがきっかけで、政府から教育困難校への転任を打診される。赴任を引き受けた彼は、初日から教師の威厳を示そうとするが、多様な人種のるつぼに圧倒されるばかりだ。生徒たちは、貧困や、保護者の無関心や、教師たちの諦めのなかで、無気力な教育環境に浸っていた。そんな彼らに自信をつけさせようと、フランソワはベテラン教師の自負を捨て、あの手この手で生徒の興味をかきたてる。クラスの雰囲気に変化が表れ始めたとき、問題児セドゥがささいなトラブルで退学処分を受け、フランソワは窮地に立たされる……。フランスの大きな社会問題である移民の子どもたちの教育に挑む教師を、個性派ドゥニ・ポタリデスが、人間臭く、また魅力的に演じている。原題はLes Grands Esprits(賢者たち)。
【シネマひとりごと】
以前本欄で取り上げた『パリ20区、僕たちのクラス』は、貧しい移民系フランス人が通学する20区の中学校が舞台で、2008年カンヌ国際映画祭の最高賞(パルムドール)を受賞した。その映画のなかで、生徒の子どもの親が、「この中学にいてはアンリ4世校に行けない」と言う場面がある。アンリ4世校は、パリ5区のパンテオンのそばにあり、ルイ=ル=グラン校と並んで、未来のエリートを多数排出するパリの二大名門校である。本作『12か月の未来図』の主人公はこの高校で教えている。経済的にも社会的にもレベルの高い家庭の子弟が相手なのだ。そんな環境から一気に移民ばかりの郊外の中学に送り込まれ、彼は戸惑い、試行錯誤する。その人生模様が、深刻になりすぎず、ユーモアを交えて巧みに描かれる。
彼は、一般教養ゼロの生徒たちをなんとか学びの場に誘いこもうと、ゴシップや三面記事のような話題を学問へとつなげてゆく。生徒たちは次第に勉強に興味を持ち、自信をつけ、最後には「ぼくも勉強すればアンリ4世校に入れるかな?」というまでに成長する。
さて、これも本欄で取り上げた映画だが、フランソワ・オゾン監督の『17歳』ではヒロインの女子高生はブルジョワ家庭の出身で、アンリ4世校に通っている。しかし、放課後は大人相手に売春する裏の顔があった。この設定には反逆児オゾンの名門校崇拝に対する強烈な皮肉がある。だが、そんなことでアンリ4世校をめざす人々の熱狂は微動だにしない。それがフランス教育界の現状でもある。
◇初出=『ふらんす』2019年4月号
*『ふらんす』2019年4月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。