映画を愛する君へ
© 2024 CG Cinéma / Scala Films / Arte France Cinéma / Hill Valle
2025年1月31日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
配給:アンプラグド
[公式HP] https://unpfilm.com/filmlovers/
監督:アルノー・デプレシャン Arnaud Desplechin
ポール(6歳):ルイ・ビルマン Louis Birman
ポール(30歳):サリフ・シセ Salif Cissé
祖母:フランソワーズ・ルブラン Françoise Lebrun
アルノー・デプレシャン監督が映画の創生期から現代までのさまざまな名場面を織り交ぜつつ、自らの映画人生を辿る。映画の発見と、映画館で見る喜びに溢れたシネマ・エッセイである。
物語はデプレシャン監督の分身ともいえる主人公ポール・デダリュスの成長とともに展開する。6歳で初めて祖母に連れられ映画館で『ファントマ 危機脱出』を見た時の高揚、中学で映画部に入り、年齢を偽ってベルイマンの映画を見に行ったこと、大学で恋愛を経験しながら、好きな映画を何度も見た思い出、そして28歳で映画監督になると決めたきっかけ……。さらに、一般観客への映画に関するインタビューや、ランズマンの『SHOAH ショア』に衝撃を受けてホロコースト研究者に会いに行く場面も登場する。それらが『ゴダールの映画史』を踏まえて全11章仕立ての迷路のようにつながってゆく。
また、デプレシャン作品の常連俳優で、『そして僕は恋をする』ならびに『あの頃エッフェル塔の下で』の主人公ポール・デダリュスを演じたマチュー・アマルリックが、ナレーションほか本人役で出演、画面を鮮やかに引き立たせている。
原題は「Spectateurs!(観客たちよ!)」。ゴダールとトリュフォーを二人の兄と仰ぐ、ヌーヴェル・ヴァーグの継承者デプレシャンが、映画に対する愛と情熱を込めた一篇である。
【シネマひとりごと】
この映画で取り上げられた作品は50本以上にのぼる。年代も国もジャンルもさまざま。なかでもベルイマン、ヒッチコック、コッポラ、キャメロンの映画は2作ずつ選ばれている。だが、デプレシャン個人の好みだけでなく、映画史における重要性や、感銘を受けた基準で選んだというだけあってバラエティ豊かだ。日本からは唯一、黒澤明の『乱』が選ばれている。映画ファンなら見たことがあったり、知っている映画を本作中に発見するだけでも興味深いことだろう。だが本作でとりわけ感動的なのは、トリュフォーの『大人は判ってくれない』の冒頭場面を情熱的に語る、監督の分身である主人公デダリュスの熱弁ぶりだ。デダリュスを通して、デプレシャン監督のオタク的な映画好きの精神が感じられ、映画を見る喜びが生々しく伝わってくる。かつてインタビューで「映画を何本撮ろうと自分は一観客であり続ける」と語ったデプレシャンの姿勢は一貫している。本作を見た観客それぞれが、自分と映画との出会いや向き合い方に思いを馳せることになるだろう。
ちなみに筆者が初めて自分の意志で映画館で見たのは『銀河鉄道999』(1979)だった。当時は入れ替え制ではなかったので感動して2回続けて見た記憶がある。みなさんの映画体験はいかがでしょうか?