グザヴィエ・ドラン監督・主演『マティアス&マキシム』
『マティアス&マキシム』
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監督・脚本:グザヴィエ・ドラン Xavier Dolan
マティアス:ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス Gabriel d’Almeida Freitas
マキシム:グザヴィエ・ドラン Xavier Dolan
2020年9月25日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
配給:ファントム・フィルム
[公式HP]https://phantom-film.com/m-m/
フランス語圏の映画界でひときわ華やかな活躍をみせるカナダのグザヴィエ・ドラン監督の最新作。ゲイであるドラン自身が主演をつとめ、親友に対して芽生えた恋心を鮮やかに描き出している。
30歳のマティアスとマキシムは幼なじみ。マティアスは堅実な中流家庭で育ち、一流企業の就職も決まり、順調な人生を歩んでいた。一方、マキシムはアルバイトをしながら、アル中の母親の面倒を見なければならず、マティアスに相談相手になってもらっている。ある日、二人は、学生時代から付き合いのある仲の良い友人たちのパーティに参加し、そこで友人の妹が監督する自主映画への出演を頼まれる。その映画の中で男性同士のキスシーンを演じた二人は、それがきっかけでお互いへの気持ちに気づいてしまう。だが、マティアスは婚約者との結婚を控え、戸惑い、葛藤する。マキシムも自分の気持ちを隠してオーストラリアへ旅立つ決心をするのだった。マキシムの送別パーティの日、二人はついにお互いへの想いを抑えきれなくなってしまう……。
母と息子の愛憎をテーマに描き続けてきたドラン監督が、美青年たちのひと夏の恋を描いたルカ・グァダニーノ監督作『君の名前で僕を呼んで』に感銘を受けて撮りあげた切ないラブストーリーである。
【シネマひとりごと】
わずか20歳にして、デビュー作『マイ・マザー』で、カンヌ映画祭に彗星のごとく登場した恐るべき子供(アンファン・テリブル)、グザヴィエ・ドランも、はや30歳。今回は青い青い、まるでティーンエイジャーのような甘酸っぱい恋を描き切った。主人公二人の社会的・経済的格差に加えて、一方には堕落した母親との確執があり、一方はすでに婚約者のいる身……と二人の間の障害をこれでもかと詰め込んで盛り上げ、劇中劇で繰り広げられる偶然のキスでとどめをさす。タイのBLドラマも顔負けの、腐女子垂涎の待ってました的展開、どうもありがとうございます! 想いを伝えられない相手に向ける熱を帯びた視線や、ドラン作品初(?)の寸止め効果は、かつてのプラトニックな名作『モーリス』や『アナ・カン』(アナザー・カントリー)を久々に思い出させてくれました。いやもうこの際、「寄宿舎もの」もお願いします、ドラン様。
今回は堂々たる監督兼主演。監督業もいいけどせっかくのビジュアル生かさないでどうすんの、とドラン本人も思ってかどうかは知らないが、生まれながらに赤い痣を顔に持つ「特別な僕」を独自のナルシシズムで役作りし、永遠の中二病を披露している。作家性を鼻で笑い、「ゴダールなんて見ない」と言い放ち、『わたしはロランス』の公開時に、他の映画作家の影響をきかれると、「インスパイアされたのは『タイタニック』」などと、自身の作風とは似ても似つかない作品を挙げるアマノジャクぶり。その少々鼻につく自己愛も含めて目が離せず、今後も生温かい目で見守ってゆきたい。
◇初出=『ふらんす』2020年10月号
*『ふらんす』2020年10月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。