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中条志穂「イチ推しフランス映画」

2018年5月号 『ルイ14世の死』


© OSS/100 films & documents-10:15 Productions-O Som e a Fùria dépot légal 2017

『ルイ14世の死』

+ 監督・脚本:アルベルト・セラ Albert Serra
+ ルイ14世:ジャン=ピエール・レオ Jean-Pierre Léaud
+ 侍医ファゴン:パトリック・ダスマサオ Patrick d'Assumçao
+ ブルアン:マルク・スジーニ Marc Susini

2018 年5 月より、シアター・イメージ・フォーラムほか全国順次公開

配給:ムヴィオラ
[公式HP]http://moviola.jp/louis14/

 

 ヴェルサイユ宮殿を建造し、太陽王と呼ばれたルイ14 世の、最後の数週間をこの上なく親密なタッチで描きだした驚嘆すべき作品。

 1715 年夏。フランス国王ルイ14 世は、狩りから戻り左足の痛みを訴える。侍医ファゴンは神経痛と診断するが、日増しに王は衰弱し、食事もとれないようになる。2週間後、パリから医師団が来て診察し、王の黒ずんだ足を見て瀉血をすすめるが、王は受け入れない。王の左足は壊疽が始まっているのに、誰も足の切断手術に踏み切ることができずにいた。そんな中、マルセイユ出身の偽医者ル・ブランが現れ、王に霊薬と称するものを飲ませる。だがその2 日後、王は昏睡状態となり、廷臣たちが見守る中、息をひきとるのだった。

 ルイ14 世を演じるのはヌーヴェル・ヴァーグの伝説的俳優、ジャン= ピエール・レオ。ほぼ全編ベッドに横たわる役ながら、彼の長い映画人生でも屈指の卓越した演技を見せている。スペイン出身の異才、アルベルト・セラ監督が、歴史上の物語を生々しく甦らせ、独戧的な映像世界を作り上げた。

【シネマひとりごと】
 本作のようにルイ14 世を描いた映画がかつてあっただろうか? 太陽王の絶大な権力や、絢爛豪華な暮らしぶりを見せつける歴史大作に見慣れた目には、至近距離で見つめる王の日常の姿が斬新に映る。かつてロベルト・ロッセリーニ監督が『ルイ14 世の権力掌握』で撮ったような、ドキュメンタリー的作風の流れを汲みながら、アルベルト・セラ監督の作品には、昆虫観察日誌のごとき視点が感じられるのだ。日に日に衰弱してゆく王をひたすら撮りつづけているだけなのに、どうにも目が離せない。対訳中にもとりあげたが、王が食物を口にする様子を廷臣たちがズラリと並んで見守り、無事飲み込むと「お見事」と拍手が起こる。似たような場面が『ルイ14 世の権力掌握』にもあった。朝、王と王妃の寝台を囲む廷臣らを前に、王妃が寝床で拍手をする。王がつつがなく夫婦のつとめを果たしたという合図だ。

 こうした食事や寝室の日常を大真面目かつ機械的に執り行う様子を画面に収めるのは、受けを狙っているわけではない。とはいえ、笑いがこみあげる。セラ監督は、死にゆく王の苦悩や恐怖など、内面をドラマチックに撮ることには興味がないようだ。そして、この昆虫観察は、最後の儀式となる解剖場面でクライマックスを迎える。解剖に携わった医師の漏らす最後の一言に、栄華を極めた太陽王もまた、一生物でしかないことに気づかされるのだ。そこには、「陳腐な死を描きたかった」という、セラ監督の揶揄すれすれのアイロニーが込められてもいる。レンブラントの絵画のような、陰影の強い独特な映像美も見逃せない。これはぜひとも映画館に足を運んでいただきたい作品だ。

◇初出=『ふらんす』2018年5月号

『ふらんす』2018年5月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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