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中条志穂「イチ推しフランス映画」

蛇の道

映画『蛇の道』
©2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA

監督:黒沢清
出演:新島小夜子/柴咲コウ
アルベール・バシュレ/ダミアン・ボナール Damien Bonnard
ティボー・ラヴァル/マチュー・アマルリック Mathieu Amalric

2024年6月14日(金)より全国順次公開中
配給:KADOKAWA
[公式HP] https://movies.kadokawa.co.jp/hebinomichi/

 日仏両国で高い評価を得ている黒沢清監督によるフランスを舞台とした復讐劇。全編フランスでロケを敢行、さらに主演の柴咲コウはセリフがほぼフランス語という難しい役を見事に演じきった。
 フランス、パリ。何者かによって8歳の娘マリーを惨殺されたアルベールは、現地で心療内科医として働く新島小夜子の協力を得て娘の復讐を決意する。アルベールと小夜子は、マリーを殺した犯人が、ある財団の関係者に違いないと推理し、財団の会計係をしていたラヴァルを拉致し、廃屋に監禁する。だが、ラヴァルは犯行を否認し、財団が密かに子供の人身売買を行っていたことを示唆する。アルベールと小夜子は、その黒幕とされるゲランという男をも拉致するが、ゲランも犯行を否定。一方、小夜子はアルベールが不在の隙に、拉致したラヴァルとゲランにある提案をするのだった。正体不明の彼女の目的は一体何なのか? そして暴走する復讐心の果てにあるものは……? 
 黒沢清監督は、26年前に本作と同名の映画を撮っている。この作品への深い思い入れと、『ダゲレオタイプの女』以来、もう一度フランスで映画を撮りたいという願いが一致して、舞台と人物設定を新たに自らリメイクを果たした。マチュー・アマルリックや西島秀俊など日仏の実力派俳優が脇を固め、不安や狂気を充溢させた黒沢ワールド全開の会心作である。

【シネマひとりごと】
 本作の柴咲コウは、付け焼刃では不可能な流暢なフランス語を披露している。撮影半年前からフランス語を猛特訓したとのこと。北海道で農業にいそしんだり、種苗法に関する発言で炎上をひきおこしたり、エコ素材のブランド服のプロデュースをしたり、女優業よりも高樹沙耶や高木美保らのナチュラルライフ仲間に入ってしまったのかと案じていたが、本作でのフランス語を駆使した華々しい主演でファンはほっとしたことだろう。何事にもはまりやすい人のようなので、このまま中村江里子や杏のお洒落フレンチのグループにスライドしないことを願う。本作は26年前の同名映画『蛇の道』(1998)のセルフリメイクである。98年版は香川照之と哀川翔のダブル主演で、娘を殺された父親を香川、その協力者新島を哀川が演じた。笑い顔だけで狂気を感じさせる香川のクセ強めの演技が脳裏にこびりついているため、本作で同じ役を演じたダミアン・ボナールが上品に見えてしまうのは仕方がない。一方、新島役は今回の作品では女性に転じて柴咲コウが演じ、怪しげな数式を教える塾講師の職からパリの心療内科医にグレードアップした。黒沢監督はツンとした女医さんがお好きなようで、これまでも洞口依子や中谷美紀が黒沢作品で女医を演じている。柴咲コウは本作中で、患者からの問いかけに自動人形のような対応を見せ、人間性を感じさせない得体の知れなさを浮き上がらせている。この無表情がラストまで一貫し、98年版にはないどんでん返しで痛烈に効いてくる。ホラーの帝王でもある黒沢清の、ひねりのきいた恐ろしい結末をぜひお確かめいただきたい。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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