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中条志穂「イチ推しフランス映画」

感動的な実話の映画化『ファヒム パリが見た奇跡』

映画『ファヒム パリが見た奇跡』


© POLO-EDDY BRIERE.

監督・脚本:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル Pierre-François Martin-Laval
ファヒム:アサド・アーメッド Assad Ahmed
シルヴァン:ジェラール・ドパルデュー Gérard Depardieu
マチルド:イザベル・ナンティ Isabelle Nanty

2020年8月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

配給:東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES

[公式HP]fahim-movie.com

 わずか8歳の難民の少年が、チェスのフランス王者をめざす。現代のおとぎ話ともいえる感動的な実話の映画化である。

 政変が続くバングラデシュ。ファヒム少年は、貧しい暮らしのなかで、チェスの国内大会で優勝するほどの天才だった。ファヒムの父親は不安定な生活を脱すべく、息子のチェスの才能を生かせる地、フランスへと向かう。なんとか到着できたものの、お金はすぐに底をつき、仕事も見つからず、フランス語もまったく分からない父子は路頭に迷ってしまう。運よく難民センターに助けられ、ファヒム父子はチェスの名コーチであるシルヴァンと出会う。ファヒムはシルヴァンの厳しい態度に最初は抵抗を感じるが、ぶっきらぼうだが愛情のこもった指導に次第に心を開く。そんななか、ファヒムの父親は難民申請を却下され、国外退去命令を下される。解決策はただ一つ、ファヒムがチェスのフランス王者になることだった……。名優ジェラール・ドパルデューが偏屈なチェスのコーチを熱演する。監督は自身も俳優であるピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル。

【シネマひとりごと】

本作で、ファヒムの父はいつまでたってもフランス語を覚えられず、難民申請で通訳者が嘘の通訳をしても分からない。いっぽうの息子はあっという間にフランス語を習得し、父親は取り残されてゆく。そんななか、父親が唯一覚えたフランス語が「ボナペティ」だった。誰にでも「ボナペティ」と言って挨拶するのだが、たぶん「さよなら」の意味と取り違えたのだろう。律儀に繰り返すその姿がなんとも哀しい。さて、「ボナペティ」の一番似合う男といえば、食いしん坊将軍のジェラール・ドパルデューだ。なにしろ「ボナペティ」というタイトルのテレビのグルメ番組を持っているくらいなのだ。息遣いが牛のようだと、過度の肥満が心配されていたが、本作の彼を見るにつけ、一向に改善していないようである。美味しいものに目のないドパルデュー。私生活では世間を騒がす奇行が数多く報告されており、一昨年はなんと北朝鮮の平壌のホテルのバーで目撃されている。仲良しのプーチンのメッセンジャーとして訪れたのか、はたまた謎の不時着なのか……? そのうえ、フランス国民から大ブーイングを受けたロシア国籍取得に飽き足らず、今度はトルコ国籍も取得予定だという。もはや何を考えているのかまったく分からない挙動不審ぶり。最近は私生活が忙しいのか脇役出演が続いているが、本作でのチェスコーチの貫禄や、B級スペイン映画『ゲット・アライブ』で見せたギャングのボス役の存在感はさすがというべきだろう。自分の名Depardieuには「神 Dieu」が宿っていると豪語する巨漢ドパルデューである。次回主演作はパトリス・ルコント監督のメグレ警部もの。神がかった演技を見られそうな予感が……?

◇初出=『ふらんす』2020年8月号

『ふらんす』2020年8月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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