天才調香師の出会いと感動の物語『パリの調香師 しあわせの香りを探して』
映画『パリの調香師 しあわせの香りを探して』
© LES FILMS VELVET - FRANCE 3 CINÉMA
© LES FILMS VELVET - FRANCE 3 CINÉMA
監督・脚本:グレゴリー・マーニュ Grégory Magne
アンヌ・ヴァルベルグ:エマニュエル・ドゥヴォス Emmanuelle Devos
ギヨーム・ファーヴル:グレゴリー・モンテル Grégory Montel
バリェステル先生:セルジ・ロペス Sergi López
2021年1月15日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開中
配給:アットエンタテインメント
[公式HP]https://parfums-movie.com/
気難しい天才的な女性調香師が、不器用だが人のいい運転手と出会い、失いかけた自信と、人への信頼を取り戻す感動的な物語。
アンヌはかつて、世界の一流ブランドから新たな香水を作る依頼が殺到する人気調香師だった。だが、数年前にストレスから嗅覚が突然なくなり、地位と名声を失う。嗅覚は戻ったものの、現在は華やかな世界から身を引き、企業などの地味な仕事を引き受け、人と関わることを避けるようになっていた。そんななか運転手としてギヨームという男を雇う。ギヨームは気難しいアンヌにうんざりしながらも、離婚調停中で娘の共同親権をなんとしても取りたいので仕事を選べない立場だ。一方、アンヌはギヨームに匂いを嗅ぎわける才能があることに気づき、調香の仕事を手伝ってもらうようになる。そして、ギヨームによって再び香りへの情熱を呼び覚まされたアンヌは再起を図ろうと決心する。だがその矢先、アンヌはまたしても嗅覚を失うという危機に直面する……。個性派で知られるエマニュエル・ドゥヴォスが、わがままでナイーヴな調香師を好演。一見華やかに見える調香の世界の奥深さが興味深く描かれた作品である。原題はLes Parfums(香り)。
【シネマひとりごと】
この映画の冒頭で、主人公ギヨームは、久々に会った娘にねだられて自販機のアイスを買おうとするが小銭がない。すると自販機を揺すり、金を入れたのに商品が出ないと、でまかせを言ってアイスをタダでゲットする。是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』でもこれと同じような場面があった。阿部寛演じる父親が、離婚して母親と暮らす息子に久々に会い、サッカーシューズを買ってやろうとするが高額で買えない。そこで、わざと商品に傷をつけ、店主に値段をまけろと迫る強引な世渡り術を披露するのだ。見ているこっちが気まずくなるようなセコさだが、役者のうまさでなぜか憎めない。口がうまく、その場しのぎのお調子者だがコミュニケーション力が高いギヨームと、プライドが高く、口下手で人付き合いが苦手な調香師のアンヌは正反対だ。調香というと香水の仕事だと思っていたが、エルメスの高級カバンの臭い消しの仕事や、トイレの芳香剤から工場地帯の悪臭対策まで、あらゆる分野で調香師の才能が必要とされている(香水の調香に関してはエルメスの初代専属調香師ジャン=クロード・エレナ著『香水』(白水文庫クセジュ)に詳しい)。悪臭は隠すのではなく、別の匂いと調合してより良いものに変化させる、というアンヌの言葉に調香師の極意がある。正反対の主人公二人を調合した結果がどうなるのかは、見てのお楽しみ……!
◇初出=『ふらんす』2021年2月号
*『ふらんす』2021年2月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。