2018年4月号 『BPM ビート・パー・ミニット』
© Céline Nieszawer
『BPM ビート・パー・ミニット』
+ 監督:ロバン・カンピヨ Robin Campillo
+ ショーン:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート Nahuel Pérez Bscayart
+ ナタン:アルノー・ヴァロワ Arnaud Valois
+ ソフィ:アデル・エネル Adèle Haenel
2018年3月24日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、ユーロスペースほか全国順次公開
配給:ファントム・フィルム
公式HP:http://bpm-movie.jp/
昨年のカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作。監督のロバン・カンピヨの実体験に基づき、エイズへの偏見や差別と闘った若者たちの活動を生き生きと描いた作品である。
1990 年代初めのフランス・パリ。エイズは死の病と言われ、同性愛者や売春婦や薬物中毒者の病気とみなされ、国が何の対策も講じなかったせいで感染が広まってしまった。そんな中、エイズ患者への不当な差別と戦い、製薬会社や国に抗議活動を行う団体アクトアップが結成される。メンバーの一人でHIV 陽性のショーンは、新メンバーのナタンと恋におちる。だが、ショーンの病は次第に悪化し、アクトアップのやり方に焦燥をつのらせ、組織から離反する。そんなショーンをナタンは献身的に介護するのだが……。死の恐怖を抱えた若者たちがそれでも青春を謳歌し、懸命に生きる姿に心を打たれる。カンヌ映画祭審査委員長のペドロ・アルモドヴァル監督も「心のパルムドール」と絶賛した。原題は120 battements par minute(1 分間に120 拍)で、BPM(ビート・パー・ミニット)は医学では心拍数、音楽ではテンポを表す。
【シネマひとりごと】
監督のロバン・カンピヨは自身もゲイであると公言し、エイズに怯えながら80 年代~ 90 年代を過ごしたと語っている。対処法がまったくなかった当時、この病気に対する恐怖が増幅された。シリル・コラール監督の『野性の夜に』はそんな状況のなかから生まれた映画で、エイズに冒されながら監督・主演をつとめたコラールは映画公開後、まもなく亡くなってしまう。死を目前にしながら映画に自らの生を刻みつけた衝撃は凄まじく、公開当時、日本でも大きな話題を呼ぶ。その前年、『ぼくの命を救ってくれなかった友へ』で、エイズに蝕まれてゆく過程を赤裸々に記した作家エルヴェ・ギヴェールが死去。同性愛者のみがかかる恐ろしい感染病だという誤った認識が蔓延した。『BPM』の中でも、女子高生が、自分には関係ない、ホモの病気だから、と言い放つ場面がある。今や、そんな非常識を口にする者はいないだろうが、その手の偏見に果敢に立ち向かい、非常識を打ち破った人々の存在をこの映画は分からせてくれる。
本作でほぼ無名の俳優たちにまじって、人気女優アデル・エネルが出演している。数年前のセザール賞授賞式で『水の中のつぼみ』の女性監督セリーヌ・シアマと恋人関係にあるとカミングアウトして映画界を驚かせ、LGBT の人々を勇気づけたエネル。ダルデンヌ兄弟の『午後8 時の訪問者』では女医役として確かな演技力を印象付けたが、『BPM』で、ゲイパレードに拳を振り上げて参加する姿は、演技につい地が入ってしまったのか、ほとんど役と一体化している。このエネルの生々しい存在感が映画をいっそうリアルなものにしている。
◇初出=『ふらんす』2018年4月号
*『ふらんす』2018年4月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。