白水社のwebマガジン

MENU

中条志穂「イチ推しフランス映画」

オゾン監督によるフランス大ヒット作『私がやりました』

映画『私がやりました』

© 2023 MANDARIN & COMPAGNIE - FOZ - GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES – PLAYTIME PRODUCTION

監督・脚本:フランソワ・オゾン François Ozon
マドレーヌ:ナディア・テレスキウィッツ Nadia Tereszkiewicz
ポーリーヌ:レベッカ・マルデール Rebecca Marder
オデット:イザベル・ユペール Isabelle Huppert

2023年11月3日(金・祝)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

配給:ギャガ

[公式HP]https://gaga.ne.jp/my-crime/

 人気監督フランソワ・オゾンによるミステリー仕立ての犯罪コメディ。『8人の女たち』風の女優の豪華な競演が話題を呼び、フランスで大ヒットした作品である。

 1930年代のパリ。有名映画プロデューサー、モンフェランが自宅の豪邸で殺害され、容疑者として売れない新人女優マドレーヌが取り調べを受ける。マドレーヌは死の直前に彼と諍いをおこしていた。窮地に陥ったマドレーヌを助けようと、彼女とルームシェアをしている駆け出し弁護士のポーリーヌが事件を引き受ける。法廷でのマドレーヌの感動的なスピーチとポーリーヌの鮮やかな弁論で二人は正当防衛となり、無罪を勝ち取る。さらに、悲劇のヒロインとして同情を集めた彼女は一躍、時の人となり、スターの仲間入りをする。だが自分が真犯人だという元・大女優が現れて、事態は思わぬ展開を見せる……。

 フランス映画界で今まさに旬の新人女優、ナディア・テレスキウィッツとレベッカ・マルデールが主役を張り、イザベル・ユペール、アンドレ・デュソリエ、ファブリス・ルキーニ、ダニー・ブーンといった錚々たる人気俳優が脇を固める、とびきり豪華で楽しい作品である。1930年代のアールデコを基調としながら、現代風にアレンジされた美術、色彩、衣装、音楽のすべてが完璧な調和をもたらしている。原題は「Mon crime(私の犯罪)」。

【シネマひとりごと】

 まるでヒッチコックの映画を見ているようなめまいを感じるオープニング映像だ。これまでもオゾン監督は『8人の女たち』『婚約者の友人』『Summer of 85』『苦い涙』など、見事に物語の時代背景を再現してきた。本作では、ヒッチコック・タッチのほか、ハリウッド黄金時代を彷彿させるセットを駆使したり、1927年のアメリカ映画『第七天国』風の屋根裏部屋を用いて、フランク・ボーゼージ風の古き良き時代の雰囲気を演出している。また、いかにもオゾンらしく、ヒロインの女性二人の同性愛めいた関係など、いかようにもとれる「匂わせ」描写にさまざまな妄想をかきたてられる。オゾンは女優を魅力的に描く天才で、ヒロインたちの立ち居振る舞いやウィットに富んだ会話もチャーミングだが、フランスを代表する大御所イザベル・ユペールの登場場面でいっそうの華やかさを増す。オゾンの前作『苦い涙』で同じように大女優を演じたカマトト演技専門のイザベル・アジャーニにはとうてい真似できない、ふてぶてしくも愛らしく、ゴージャスな女優を、ユペールは軽やかに演じている。男優たちも負けてはいない。真ん中分けヘアスタイルがいつになく山師感を漂わせるダニー・ブーン、融通の利かないトボケ演技が冴えわたるファブリス・ルキーニ、重厚な顔でセコい計算をめぐらすアンドレ・デュソリエなど、各人の十八番演技も際立っている。芸達者揃いだが、各々の個性を埋もれさせることなく発揮できたのもオゾンの演出のなせる技だ。ラストの演劇的仕掛けも凝りに凝っていて、映画の本源がお芝居であることを思い出させてくれる楽しい作品である。

◇初出=『ふらんす』2023年11月号

『ふらんす』2023年11月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2024年5月号

ふらんす 2024年5月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

ランキング

閉じる