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中条志穂「イチ推しフランス映画」

自由に目覚めた女性を描く『5月の花嫁学校』

映画『5月の花嫁学校』


© 2020 - LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 3 CINÉMA - ORANGE STUDIO – UMEDIA

監督・脚本:マルタン・プロヴォ Martin Provost
ポーレット:ジュリエット・ビノシュ Juliette Binoche
ジルベルト:ヨランド・モロー Yolande Moreau

2021年5月28日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか順次公開予定

配給:アルバトロス・フィルム

[公式HP]https://5gatsu-hanayome.com/

 これまでアカデミー助演女優賞のほか、世界三大映画祭の女優賞を制覇した演技派ジュリエット・ビノシュが、花嫁修業学校の厳しい校長に扮したコメディ。

 1960年代後半。アルザス地方にある寄宿制の家政学校校長のポーレットは、良妻賢母になるための七か条をかかげ、女生徒たちの養成に尽力する毎日を送っていた。だがある日、学校の経営を指揮していた夫が食べ物を喉に詰まらせて急死する。後に残されたのは多額の借金。破産寸前の学校を守るため銀行へ融資の申請に赴くと、そこには戦争で行方知れずになったかつての恋人アンドレがいた。アンドレはポーレットに借金解消の抜け道をアドバイスし、未亡人となった彼女に情熱をぶつけてくる。初めは求愛を拒んでいたポーレットだが、次第にアンドレを愛する気持ちを抑えきれなくなってゆく。そんな中、パリでは五月革命が勃発し、女性解放運動が始まっていた。男性に従い、つつましく生きてきたポーレットも、これまでの自分の生き方に疑問を持つようになる。やがて自分を解放し、ポーレットの革命が始まるのだった……!

 『セラフィーヌの庭』『ルージュの伝言』など、女性の自立に焦点をあてて撮り続ける男性監督のマルタン・プロヴォが、自由に目覚めた女性を清々しく描いた作品。原題はLa bonne épouse(良妻)。

【シネマひとりごと】

 自立した女性が多いというイメージのあるフランスだが、驚くべきことに、1968年の五月革命以前は、良妻賢母をめざして花嫁修業学校に通う女性が少なくなかった。本作の舞台である花嫁学校の、良き妻になるための7か条の一部をご紹介しよう。「なによりもまず夫に従うこと」、「二日続けて同じ服を着ず、つねにお洒落に気を遣い、愛嬌を忘れない」、「お酒は飲まない、ただし夫が飲むのは許しましょう」など、さだまさしの「関白宣言」じゃないが、聞いていて腹が立つというよりあきれてしまう。「わきまえた女」を仕立てあげていたのは日本ばかりじゃなかったのだ。だが、そのような虐げられた状況に置かれたこの時代の女性を、主演のジュリエット・ビノシュはむしろ軽やかにコミカルなマダムとして演じきっている。役が「降りてくる」憑依型の女優で、実生活でも、ある時は画家、ある時は詩人、はたまたある時はダンサーとして活動する多才なお方。特にダンスに関しては日本のBunkamuraシアターコクーンでコンテンポラリーダンスの公演まで行っている。この時彼女に降りて来ていたのはピナ・バウシュかプレルジョカージュだったのだろう。見る人によってはやや微妙と感じられる活動もあるが、本人曰く「とにかく動くことが好き。絵画、演技、ダンス、何においても全ては動くことから始まるのよね」。はい、確かに……。本作でもミュージカル俳優ばりの歌と踊りで本家に迫る。それまでの保守的なタイトスカートの服装から軽快なパンツルックに変身したビノシュが、色とりどりの服を着た花嫁学校の生徒たちを引き連れて、「良き妻(ラ・ボヌ・エプーズ)」と連呼しながら歌い踊る。両腕をぶんぶんと力強くふり回して闊歩する姿に、かつてレオス・カラックス監督『汚れた血』で、両手を羽のように広げて疾走したあどけない瞳のビノシュが重なる。いまや大女優の彼女を見ると、隔世の感に思わず眩暈がおこりそうだ。

◇初出=『ふらんす』2021年5月号

『ふらんす』2021年5月号「対訳シナリオ』で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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