フランソワ・オゾン監督作『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS-France 2 CINÉMA-PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE
監督・脚本:フランソワ・オゾン François Ozon
アレクサンドル:メルヴィル・プポー Melvil Poupaud
フランソワ:ドゥニ・メノーシェ Denis Ménochet
エマニュエル:スワン・アルロー Swann Arlaud
2020年7月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
配給:キノフィルムズ/東京テアトル
[公式HP]www.graceofgod-movie.com/
話題作を世に送り続ける人気監督フランソワ・オゾンが、社会に大きな衝撃を与えた、カトリック神父による児童への性的虐待の実話に挑んだ衝撃作。
妻と子供5人とリヨンで幸せに暮らすアレクサンドルは、ある日、ボーイスカウト時代の知り合いから「君もプレナ神父に触られた?」と尋ねられ、封印していた幼時のおぞましい記憶がよみがえる。プレナが今も子供たちに教会で教えていることを知ったアレクサンドルは、教会の上層部へ真実を告げるが、最初に対応したバルバラン枢機卿はのらりくらりとした対応でいつまでもプレナを処分しない。教会の態度に不信を感じたアレクサンドルは告訴にふみきり、同じ被害者のフランソワと協力して警察を動かすが……。オゾン監督は、神父による性的虐待の隠蔽と、被害者たちの沈黙からの脱却をドキュメンタリー風のタッチで描く。狂わされた自らの人生を再び始めようと、家族の支えのもと勇気を奮い起こす被害者たちの連帯が感動を呼ぶ。ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞。原題はGrâce à Dieu(神の恩寵により)。
【シネマひとりごと】
2016年のアカデミー作品賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』は、アメリカで起きた、神父による児童への性的虐待のスキャンダルを暴くドラマだった。この種の事件は世界各地で発生しているが、フランスでは多くの被害者を出した神父プレナの犯罪が今も裁判で係争中である。オゾン監督は『グレース・オブ・ゴッド』で、過去と葛藤する被害者の立場からこの事件をありのままに実名で描いている。対訳にもあるが、犯罪を犯した当の神父プレナが「私は病気なんだから」と、他人事のように言い放つ姿に唖然とする。原題のGrâce à Dieuは、文字通りの「神の恩寵により」という意味の他に「おかげさまで」という軽い意味がある。この事件が社会的問題となったとき、教会側が開いた記者会見でのバルバラン枢機卿の発言「Grâce à Dieu(神の恩寵により)、プレナ神父の他の事件は時効を迎えた」に対し、記者の一人が、「恐ろしい発言だ。Grâce à Dieu は、heureusement(幸いにも)という意味ですよ」と噛みついた。まさに、教会の権威主義と退廃をあぶりだしたやりとりだ。
本作は、教会を告発した一人の被害者の物語から次の被害者の物語へとバトンリレーのように展開する。最初の被害者を演じるのは、実力派俳優メルヴィル・プポー。グザヴィエ・ドラン監督の『わたしはロランス』で謎ファッションに身を包み、トランスジェンダーの少々イタイ役を熱演。次いで、いまや中国一の脱税お騒がせ美人女優、ファン・ビンビンとの共演作『背徳と貴婦人』では、清国の皇后に思いを寄せる修道士画家を寡黙に演じた。癖のある役が続いた後の、本作のサラリーマンスタイルのプポーは逆に新鮮だ。ラストで「パパは今でも神様を信じてる?」と息子から尋ねられ、肯定とも否定ともつかない微妙な表情で答えるプポーの姿に、教会に対するオゾンの懐疑のまなざしが見える。
◇初出=『ふらんす』2020年7月号
*『ふらんす』2020年7月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。