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中条志穂「イチ推しフランス映画」

『C’est la vie ! セラヴィ!』


© 2017 - QUAD + TEN - TEN FILMS - GAUMONT - TF1 FILMS PRODUCTION - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE

『C’est la vie ! セラヴィ!』

+ 監督・脚本:エリック・トレダノ Eric Toledano
       オリヴィエ・ナカシュ Olivier Nakache
+ マックス:ジャン=ピエール・バクリ Jean-Pierre Bacri
+ ジュリアン:ヴァンサン・マケーニュ Vincent Macaigne

2018年7月6日(金)より、渋谷・シネクイントほか全国順次公開

配給:パルコ

[公式HP]http://cestlavie-movie.jp

 日本でも大ヒットした『最強のふたり』の監督コンビ、エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュの最新作コメディ。今年のフランス映画祭のオープニングを飾る作品である。

 ウエディング・プランナーとして長年、結婚式をプロデュースしてきたマックスは、無理難題を押し付ける客の好みにあわせた仕事に疲れ、引退を考えていた。私生活では、部下のジョジアーヌと愛人関係にあったが、妻に離婚を切り出せずにいる。次に扱う結婚式は、17世紀のお城を舞台にした豪華なパーティで、依頼人の新郎ピエールは少々気取った面倒な男。しかも、準備の段階で、従業員同士がもめごとを起こしたり、予定していたバンドがこなくなったり、食材が腐ってしまったりとハプニングが続く。さらには、労働監査局ふうの男がパーティにやってきたため、無届けの日雇い外国人を雇っているマックスは青ざめる。果たして、マックス、そして結婚式はどうなるのか……? 本作は、2015年のパリ同時多発テロに沈むフランス国民を笑いで元気づけたいという監督の切なる思いから作られた。主演は俳優のジャン=ピエール・バクリ。アラン・レネやセドリック・クラピッシュの監督作で脚本家としてもおなじみだが、本作でもシナリオに参加している。

【シネマひとりごと】

 本作のフランス公開タイトルは、Le Sens de la fête(パーティのゆくえ)である。その題名とはいささか趣きが異なるが、邦題の『セラヴィ!』は、今や「セボン」や「トレビアン」と並ぶ、日本でも通じるフランス語になりつつある。ヴァンサン・カッセルとお笑い芸人・小峠英二による、炭酸飲料水オランジーナのCMで、カッセルが失恋する場面で「セラヴィ(これも人生さ)」と言う。カッセルはCM 中で「セラヴィな男」と命名までされている。カッセルほど「セラヴィ」感はないかもしれないが、本作の主人公も、前途多難なトラブルに見舞われながら、笑って受け流すユーモアを備えている。フランスはさまざまな人種が集まった国。一昨年公開された仏映画『最高の花婿』は、異人種の婿を迎えて困惑する花嫁の父を描いたが、本作の従業員の面々も、多種多様な民族で構成されている。多様なのは民族だけではない。ここで描かれている登場人物の個性もそれぞれ強烈だ。文法の間違いが気になってしょうがない、ひきこもり風のナイーヴな男(ヴァンサン・マケーニュがはまり役!)、報道写真家になりたかったが結婚式の専属カメラマンとして働く偏屈な男、何が何でもスポットを浴びたい目立ちたがり屋のB 級歌手……『最強のふたり』や『サンバ』で、マイノリティやハンディキャップのある人々を温かく描いてきた監督の、あらゆる人間に対する優しいまなざしが感じられる。この映画製作のきっかけはパリの同時多発テロだった。『セラヴィ!』は、個々の違いを受け入れ、「セラヴィ」と言える寛容な精神こそが今の世界に不可欠だということを、極上の笑いとともに示してくれる。

◇初出=『ふらんす』2018年7月号

『ふらんす』2018年7月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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