永遠の名作が蘇る『恐るべき子供たち 4Kレストア版』
映画『恐るべき子供たち 4Kレストア版』
©1950 Carole Weinkeller (all rights reserved) Restauration in 4K in 2020. ReallyLikeFilms
監督:ジャン=ピエール・メルヴィル Jean-Pierre Melville
原作・脚色・台詞・ナレーション:ジャン・コクトー Jean Cocteau
エリザベット:ニコール・ステファーヌ Nicole Stéphane
ポール:エドゥアール・デルミット Édouard Dermithe
2021年10月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか順次全国公開
配給:リアリーライクフィルムズ
[公式HP]https://www.reallylikefilms.com/osorubeki
ジャン・コクトーの有名な小説の、ジャン=ピエール・メルヴィル監督による映画化。フランス公開70年記念で字幕を一新、4K修復版として鮮烈な映像で劇場公開される。
16歳の姉エリザベットと病弱な14歳の弟ポールは、病にふせる母親と三人でパリに暮らしている。姉弟は二人だけの秘密の空想を共有する、互いに離れられない存在だった。ある日、ポールは憧れの級友ダルジュロスの雪玉を胸に受け負傷する。親友ジェラールがポールを家まで運ぶ。エリザベットは母親の看病に加え弟まで面倒を見なければならないことに腹を立てるが、まもなく母親は急死してしまう。エリザベットは生活の足しにとブティックのモデルとして働き始め、そこでアガットという女性と親しくなり家に連れてくる。アガットはダルジュロスに瓜二つで、ポールは混乱する。そんな折、エリザベットはミカエルという資産家からプロポーズされ結婚を決めるのだが、結婚式直後、ミカエルは事故死する。エリザベットは莫大な遺産を受け継ぎ、ポール、アガット、ジェラールがミカエルの残した屋敷に転がり込むことに。しかし、ポールがアガットへの恋心を姉に打ち明けたことから、不可避な運命のいたずらが始まる……。大人になることを拒む、近親相姦的な愛憎で結びついた美しい姉弟のギリシア悲劇のような物語を、名カメラマン、アンリ・ドカエの端麗な映像で綴った永遠の名作。ナレーターはコクトー自身がつとめている。
【シネマひとりごと】
原作小説『恐るべき子供たち』は発表当初、映画化したいと多くの申し出があったが、作者のコクトーが頑なに拒んでいた。だがメルヴィルの『海の沈黙』を見て、映画化を許可したという。この『海の沈黙』は、観る者をも沈黙に追い込む硬質な出来映えで、コクトーのストイックな古典的趣味と合致したのだろう。映画版『恐るべき子供たち』では、のちにフィルム・ノワールの名手と呼ばれるメルヴィルのスタイリッシュな映画的手法はやや抑え気味で、コクトーらしさが強く感じられ、舞台を演出するような手法が際立っている。コクトーの死後、この名作を再び映画化しようという強者はなかなか現れなかったが、ヴィルジニー・テヴネ監督が『エリザとエリック』で、メルヴィル映画の陰鬱さを捨て去り、姉弟の神聖な王国をポップで、色彩溢れる、騙し絵のような秘密空間に作り上げた。お洒落で毒気のある演出が魅力的な掘り出し物だったと思う。
その後、ベルトルッチが『恐るべき子供たち』の翻案ともいえる『ドリーマーズ』を撮ったが、こちらはセクシュアリティ最重視のベルトルッチらしい濃厚な演出で、コクトーの神話的な夢の世界から、良くも悪くも見事に抜け出してしまった。改めてメルヴィルの『恐るべき子供たち』を見直すと、ポールがダルジュロスに感じている性愛の魅力だけでなく、原作に書かれているジェラールのポールへの同性愛的な庇護欲も、短い場面で的確に表現されている。コクトーの世界の見事な映像化だと思わず膝を打つ。時代を経ても古びることのないこの物語の、さらなる映画化も見てみたい。
◇初出=『ふらんす』2021年11月号
*『ふらんす』2021年11月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。