マリア・モンテッソーリ 愛と創造のメソッド
© Geko Films – Tempesta - 2023
2025年3月28日(金)よりシネスイッチ銀座他にて全国順次公開
配給:オンリー・ハーツ
[公式HP] http://maria.onlyhearts.co.jp/
監督:レア・トドロフ Léa Todorov
マリア:ジャスミン・トリンカ Jasmine Trinca
リリ:レイラ・ベクティ Leïla Bekhti
世界中の教育現場で実践されているモンテッソーリ・メソッド。その教育法を世に広めたマリア・モンテッソーリの奮闘の日々を描く感動的な映画である。
20世紀初頭のローマ。小児科医のマリアはパートナーであるジュゼッペと、知的障害のある子供向けの教育施設を運営していた。二人は結婚せず、息子は田舎の乳母に預け、ひたすら教育のために働く忙しい日々を送る。そんなある日、パリで人気の高級娼婦リリが娘ティナを施設に連れてくる。リリは障害のある娘の存在が自分の立場を脅かすことを恐れていた。一方、マリアの教育法は、子供たちを愛し、子供の力を信じて見守ることだった。次第にティナも独自の能力が引き出されてゆく。リリはティナにまったく興味を示さなかったが、娘の成長を見るにつれ、マリアの教育方針に共鳴するようになる。しかし、マリアは男性優位の社会で思うように活動できないことに苦しんでいた。それに対して、リリは女の魅力を武器にのし上がった強者だ。こうして全くタイプの異なる二人の女性が、男社会で自分たちの居場所を勝ち取るために協力しあうことになる……。
児童の教育システムの確立に心血を注いだヒロインの信念と、異なった出自の女性との熱い連帯を描いている。監督はドキュメンタリー映画出身のレア・トドロフ。著名な思想家ツヴェタン・トドロフの娘である。原題は「La Nouvelle Femme(新しい女性)」。
【シネマひとりごと】
オバマ元大統領やアマゾンの創業者ベゾスやテイラー・スウィフト、さらには藤井聡太まで受けていたことで有名なモンテッソーリ教育。有名小学校お受験向けの幼稚園で実施されている特別な教育法だとばかり思っていたが、本来の設立目的は知的障害児のための施設だ。マリア・モンテッソーリは、自分の子供を乳母に預け、他人の子供の教育に一生を捧げるという、一見矛盾した人生を送ったが、それは当時の社会がマリアのような生き方を許さなかったためである。教育という崇高な仕事のためであろうと、結婚した女性は家庭に入るものと決められていた時代に、仕事をしたいなら結婚や子供は諦めるほかなかった。
一方、本作ではマリアと対照をなす高級娼婦のリリ役に、アルジェリア移民の血を引く女優レイラ・ベクティが起用されている。高級娼婦というと、『椿姫』のマリー・デュプレシのような、社交界の貴婦人もどきのイメージがあるが、本作のリリは、黒髪に浅黒い肌のジプシー風の外観で、バニーガールのような衣装で太腿もあらわな踊りを披露する。脚線美で有名なレイラ・ベクティの見せ場でもあるが、当時の高級娼婦像とはかけ離れている。元祖BL漫画の金字塔である、竹宮惠子先生の『風と木の詩』の主人公セルジュの母親もジプシーの高級娼婦だったが、囲われの身としての控えめさは保持していた。だが本作のトドロフ監督は、リリを庇護者から守られる立場ではなく、力強く自由な女性のモデルとして描いている。教育者マリアと娼婦リリ、まったく立場の違う二人が意気投合し、女性の権利獲得をめざす姿は、現代にも通じる「新しい女性」の像を提示してくれている。