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中条志穂「イチ推しフランス映画」

お騒がせ水球チームのその後を描く『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』

映画『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』

© 2021 Lilies Films / France 3 Cinéma

© 2022 LES IMPRODUCTIBLES - KALY PRODUCTIONS - FLAG - MIRAI PICTURES - LE GALLO FILMS

監督・脚本:
セドリック・ル・ギャロ Cédric Le Gallo
マキシム・ゴヴァール Maxime Govare
セリーム:ビラル・エル・アトレビー Bilal El Atreby
マチアス:ニコラ・コブ Nicolas Gob

2022年10月28日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺他全国順次公開

配給:フラッグ

[公式HP] Shinyshrimps-movie.jp

 フランスで大ヒットした『シャイニー・シュリンプス! 愉快で愛しい仲間たち』から3年、ゲイのお騒がせ水球チームのその後を描いた待望の第二弾である。

 ゲイの水球チーム「シャイニー・シュリンプス」は、新たな有力メンバー、セリームを迎え、LGBTQ+のスポーツの祭典「ゲイゲームズ」出場のため東京に向かう。ところが、実はセリームはゲイが嫌いだった。おまけに飛行機の乗継ぎに失敗し、とある社会主義国で丸1日過ごさねばならない羽目に。そんなハプニングもなんのその、お気楽なメンバーたちは異国の夜を思いっきり楽しもうと街に繰り出す。だが、そこはフランスと違い保守的な国のこと。メンバーはゲイ狩りに追われたり、同性愛矯正施設に送られたり、大会を目前にしてあわやチーム解散の大ピンチに見舞われてしまう……! 前編で、仲間を病気で失ったメンバーたちが、新たな土地での偏見や差別に機転とユーモアで立ち向かう。どんな困難にもへこたれないポジティブな精神から勇気をもらえる映画だ。原題はLa Revanche des Crevettes pailletées(キラキラ海老たちの反撃)。

【シネマひとりごと】

 映画冒頭のタイトルバックは、世界的に有名なゲイの写真家、ピエール&ジルの作品にそっくりの、キッチュでポップな絵柄をバックに踊る水球チーム「シャイニー・シュリンプス」のメンバーたち。全員がセーラームーンもどきの格好で画面に躍り出るさまは、LGBTQ+の祭典、レインボー・プライドのパレードを眺めているように楽しい。だが華やかなオープニングから一転、物語は理不尽な偏見によって排除されそうになる彼らの奮闘を描く。本作でシュリンプスは同性愛矯正施設に送られてしまう。ニコール・キッドマン主演映画『ある少年の告白』にあるような同性愛矯正施設が、いまだに存在しているのか疑問だったが、あながち極端な話でもないようだ。今年日本でも公開されたドキュメンタリー映画『チェチェンにようこそ─ゲイの粛清─』によれば、チェチェン共和国では現在も国家主導のゲイ狩りが行われ、国家警察からの拷問、殺害が遂行されているという。こうした馬鹿げた差別への怒りを、シュリンプスは暴力ではなく、機転と笑いと連帯でしなやかにかわす。また、ラストでは日本のアーティスト、ビッケブランカの曲「Changes」が全世界共通のエンディングソングとして使われている。ビッケブランカはシム・ウンギョン主演のNHKドラマ『群青領域』でもドラマの要となる切ない主題歌で強烈な存在感を刻み付けていた。本作でも変幻自在なメロディラインと、全てのものが「変われますように!」という、物語にぴったりの歌詞で余韻を残してくれる。今回、チームはヘテロセクシャルのメンバーを受け入れ、新たな変化を遂げた。柔軟に変わりゆくシュリンプスの第三弾を鶴首して待ちたい。

◇初出=『ふらんす』2022年11月号

『ふらんす』2022年11月号「対訳シナリオ」に、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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