映画『シャルルとリュシー』

©1979 Cythère films – Paris
監督:ネリー・カプラン Nelly Kaplan
シャルル:ダニエル・チェカルディ Daniel Ceccaldi
リュシー:ジネット・ガルサン Ginette Garcin
2025年12月26日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開
配給:グッチーズ・フリースクール
[公式HP] https://www.nellykaplan.jp/
保守的な価値観や常識にとらわれない自由な作風を貫き、現在高く再評価される女性監督ネリー・カプランの1979年の作品。初老の夫婦の逃避行をコミカルに描いたロード・ムービーである。
シャルルとリュシーは長年連れ添った夫婦。夫シャルルは骨董品屋を営んでいたものの破産し、それ以後はろくに働きもしない。元舞台芸人のリュシーは掃除婦として家計をきりもりしていたが生活は苦しく、怠け者の夫にもうんざりしていた。そんなある日、リュシーに遺産相続の話が舞い込む。遠い親戚から南仏の豪邸を相続することになった。二人は喜び勇んで南仏に向かう。だが、いくら探しても豪邸は見つからない。しかも乗っていた車が盗難車であることが分かり、二人は警察から追われる身になってしまう……。
金も宿も希望もない夫婦が、行く先々でハプニングに見舞われるが、そのつど偶然の幸運や処世術によってピンチを乗り越えていく。弥次喜多道中のようなドタバタぶりと、夫婦の絆も垣間見える、笑いに満ちた温かい物語となっている。
本作は「ネリーに気をつけろ! ネリー・カプラン レトロスペクティヴ」の一作。その他に『海賊のフィアンセ』『パパ・プティ・バトー』『愛の喜びは』の計四作が特集上映される。
【シネマひとりごと】
ネリー・カプラン監督のデビュー作『海賊のフィアンセ』は、本作より前の1969年に製作されたが、今見ても全く古びておらず、現代的な感性に驚かされる。ヒロインはフランソワ・トリュフォー作品でもおなじみのベルナデット・ラフォン。村ののけ者として、男たちのみならず同性愛者の女主人の食い物にされていた女が、母親の理不尽な死をきっかけに反逆に出る。売春で得た金でガラクタ雑貨を買い、あばら屋の住まいを飾り立てるのだが、その極端なちぐはぐさがかえってキッチュでお洒落に見える。体で稼いだ金を好きに使い、次々と男たちを手玉にとり、鮮やかな復讐をやりとげるさまはなかなか清々しい。カプラン監督は、女性でありながら女の太腿やパンチラ(?)がお好きなようで、四つん這いで床掃除をするラフォンを後方からカメラにおさめたり、『パパ・プティ・バトー』(1971)ではヒロインに超ミニのワンピースで暴れさせたり、本作のリュシーにも高所の棚の物を取らせたりする場面がある。ただし、こういった描写は男性を喜ばせるためではない。カプランは、他者を誘惑する権利が常に男性に与えられていることに反感を感じていたという。 アラン・レネ作品の常連俳優ピエール・アルディティが主役を務めた『愛の喜びは』(1991)は、あわよくば女三人をモノにして楽しもうと考える男が、逆に女三人のオモチャにされるというお話だ。かといってフェミニズムを振りかざしたりするわけでもなく、固定観念にとらわれない柔軟な視点を持ち、深刻な状況や愚か者をおふざけで包み込むおおらかさがある。また、各々の作品には水晶玉やタロットカード、神秘現象の描写もあり、ジャック・リヴェットの作品にも通じる魔術的な遊び心が感じられる。本作ではカプラン監督自身も占い師役で出演していることからも、超現実への偏愛があるようだ。
今回の特集の四本はいずれも本邦劇場初公開、カプランの独特な世界に触れる貴重な機会をどうぞお見逃しなく。



