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中条志穂「イチ推しフランス映画」

映画『ディリリとパリの時間旅行』

映画『ディリリとパリの時間旅行』


© 2018 NORD-OUEST FILMS-STUDIO O-ARTE FRANCE CINEMA-MARS FILMS-WILD BUNCH-MAC GUFF LIGNE-ARTEMIS PRODUCTIONS-SENATOR FILM PRODUKTION

+ 監督・脚本:ミッシェル・オスロ Michel Ocelot
+ 音楽:ガブリエル・ヤレド Gabriel Yared

2019年8月24日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

配給:チャイルド・フィルム

[公式HP]https://child-film.com/dilili/

 『キリクと魔女』、『アズールとアスマール』など、影絵の手法や鮮烈な色彩を駆使し、アニメーションの粋を極めたミッシェル・オスロ監督の待望の新作。

 1900 年頃のパリ。主人公の少女ディリリは、ニューカレドニアから船に乗ってやってきた。万国博覧会の植民地村で見世物に出演するためだ。ディリリを見た青年オレルは彼女と友達になる。折しもパリでは「男性支配団」による謎の少女連続誘拐事件が起きていた。ディリリとオレルは、キュリー夫人、プルースト、ロートレック、ロダン、エッフェルら、ベル・エポックの有名人たちの協力で誘拐事件を解決しようとする。だが、男性支配団が次に狙っていたのはディリリだった……。古き良き時代のパリを旅するような、めくるめくアニメーションの饗宴に息をのむ。当時のパリの風景や人間群像などのすべてを再現したかのような、まことに贅沢な作品である。原題はDilili à Paris(パリのディリリ)。

【シネマひとりごと】

 本作の冒頭に出るパリ万国博覧会の植民地村は、通称「人間動物園」と呼ばれていた。ベル・エポックの人気黒人芸人ショコラの半生を描いた映画『ショコラ 君がいて、僕がいる』では、ショコラがこの植民地村を訪れる場面がある。着飾った男女が、半裸の原住民たちの非文明的な生活を見物して楽しむ。その様子を見たときの、ショコラの羞恥と悲哀の入り混じった表情が印象的だった。本作の主人公ディリリも、そうした「人間動物園」に出演しているが、好奇の目におじけづくことなく堂々と振舞う。

 オスロ監督は前作『夜のとばりの物語』のインタビューで、影絵アニメーションのいいところは、登場人物の肌の色への差別を感じさせないことだと語っていた。『ディリリとパリの時間旅行』では人物に影絵は使用していないが、オスロ監督の一貫した信念は、差別に立ち向かう勇敢なヒロイン像に投影されている。『夜のとばりの物語』は3Dで製作され、ノスタルジーを誘う影絵に最新技術を融合させ話題を呼んだ。

 今回、オスロは、誰もが見慣れたパリの風景に、まったく新たな質感を与えている。実際のパリを写真に撮って加工したとのことだが、全てをCG で作成したものとは明らかに違う、手仕事の温かみがある。さきごろの火事で焼失してしまったノートルダムの尖塔はじめ、凱旋門、エッフェル塔、モンマルトルの丘、チュイルリー公園、ムーランルージュなどが次々に現れ、当時のパリを観光しているような幸せな気分にさせてくれる。絢爛豪華なオペラ座の黄金色の装飾や、雨で濡れるヴァンドーム広場の舗道の輝き、エッフェル塔から見下ろすパリの風景などは、この街を観光したことのある人の記憶を新たに活性化してくれることだろう。また、『レ・ミゼラブル』でジャン・ヴァルジャンが逃げこんだ、パリのはらわたともいうべき下水道も登場する。かつて、アンジェイ・ワイダ監督の名作『地下水道』では、下水道での逃亡劇の最後に無念にも頑丈な鉄栅が主人公にたちはだかった。本作でも同じ困難に直面したディリリはこれをどう克服するか? おとぎ話のラストにふさわしい結末は見てのお楽しみに。

◇初出=『ふらんす』2019年8月号

『ふらんす』2019年8月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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