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中条志穂「イチ推しフランス映画」

女性ガンマンの子供時代を鮮やかに描いたアニメ『カラミティ』

映画『カラミティ』


© 2020 Maybe Movies, Nørlum, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Riskit Inc.

監督・脚本:レミ・シャイエ Rémy Chayé

2021年9月23日(木・祝)より順次全国公開

配給:リスキット

[公式HP]https://calamity.info/

 アメリカの西部開拓史上初の女性ガンマン、カラミティ・ジェーン。その子供時代を鮮やかな色彩で描きあげたアニメーション作品である。

 1860年代のアメリカ。12歳のマーサ・ジェーンは、母を亡くし、父と姉弟とともに幌馬車旅団の一員として西部をめざしている。だが、旅の途中で父が負傷し、マーサは姉弟の世話をしながら父親の代わりに家長をつとめることになる。男勝りな性格のマーサがズボンをはき、馬を操り、男のようにふるまうと、伝統的な考えの旅団の団長らと軋轢が生まれた。そんなある日、野獣に襲われそうになったところを騎兵隊のサムソン少尉に助けられる。サムソンを団長に紹介するが、サムソンは旅団の金目のものを盗んで失踪し、グルだと疑われたマーサは窮地に立たされる。マーサはサムソンを捕まえようと一人で旅立つが、さまざまなトラブルに巻き込まれて……。

 高畑勲も絶賛した『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』のレミ・シャイエ監督最新作。斬新かつ鮮烈な色使いの風景のなかで、『母を訪ねて三千里』や『ペリーヌ物語』を凝縮したような主人公の波乱万丈の物語が展開する。昨年のアヌシー国際アニメーション映画祭でクリスタル賞(グランプリ)を受賞した。原題はCalamity, une enfance de Martha Jane Cannary(疫病神、マーサ・ジェーン・カナリーの子供時代)。


© 2020 Maybe Movies, Nørlum, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Riskit Inc.


© 2020 Maybe Movies, Nørlum, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Riskit Inc.

【シネマひとりごと】

 アヌシー国際アニメーション映画祭は、カンヌ映画祭からアニメーション部門を独立させて作られた。長編部門は、クリスタル賞(グランプリ)が最高の賞となっており、次に審査員賞となっている。2017年は湯浅政明監督『夜明け告げるルーのうた』がグランプリ、片淵須直監督『この世界の片隅に』が審査員賞を受賞し、日本作品が長編部門を独占した。他に、以前本欄でも紹介したミシェル・オスロ『キリクと魔女』やクロード・バラス『ぼくの名前はズッキーニ』、宮崎駿『紅の豚』、高畑勲『平成狸合戦ぽんぽこ』などがグランプリを受賞している。『リボンの騎士』や『ベルサイユのばら』など、男装する女性の活躍を描いたアニメは国境に関係なく人気があるが、本作のマーサ・ジェーンも少年に間違われる勇姿で、男どもをたじろがせる。史実によれば、ジェーンは名うてのガンマンとしてその名をとどろかせたが、探鉱採掘人、駅馬車の馭者、鉄道労働員、賭博師、はては娼婦などさまざまな職業についたとされている。セシル・B・デミル監督『平原児』やデイヴィッド・バトラー監督『カラミティ・ジェーン』で描かれるジェーンは、男勝りながらも、気に入った男には自分からぐいぐい迫る積極的な女性として描かれており、このイメージが定着している。本作のヒロインもそれを踏襲し、自分からキスをして居丈高な男の子を黙らせたりと、ある意味ツンデレで、男の子たちをギャップ萌えでどぎまぎさせるさまが微笑ましい。ジェンダーレスや、性的役割の逆転にむしろ魅力を感じる今の時代において、カラミティ・ジェーンをアニメ化する意味はそこにあるのかもしれない。

◇初出=『ふらんす』2021年10月号

『ふらんす』2021年10月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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