ロザリー
© 2024 – TRÉSOR FILMS – GAUMONT – LAURENT DASSAULT ROND-POINT - ARTÉMIS PRODUCTIONS
2025年5月2日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:クロックワークス
[公式HP] https://klockworx.com/rosalie
監督:ステファニー・ディ・ジュースト Stéphanie Di Giusto
ロザリー:ナディア・テレスキウィッツ Nadia Tereszkiewicz
アベル:ブノワ・マジメル Benoît Magimel
ピエール:ギヨーム・グイ Guillaume Gouix
実在の「髭の生えた女性」の生涯を題材に、自分らしさを貫いた女性の勇気をたたえる物語。
19世紀末のフランス。若い娘ロザリーは父親のすすめで田舎町でカフェを営むアベルと結婚する。生まれつきの多毛症に悩まされる彼女は、結婚相手に気に入られるかどうか心配だった。一方、アベルのほうは、ロザリーの持参金と、経営がおもわしくないカフェの手伝いをやってもらうことが目当てだった。だが結婚してまもなくアベルはロザリーの秘密を知り、彼女を拒絶する。ロザリーは夫に見捨てられないよう、一生懸命尽くして、傾いたカフェを建て直そうと、自らの髭を売りものにしようと思いつく。ロザリーの狙いは当たり、カフェは連日大繁盛。アベルは次第に妻の純粋でひたむきな姿
に惹かれてゆく。だが、保守的な村人たちのなかには、ロザリーの人気をねたむ者もいた。そんなある日、村で火事騒ぎが起こり、ロザリーはその罪を着せられてしまう……。
『ザ・ダンサー』でデビューしたステファニー・ディ・ジュースト監督の第二作。フランソワ・オゾン監督『私がやりました』の主演でいま最も注目を浴びる新進女優ナディア・テレスキウィッツがロザリーを演じ、名優ブノワ・マジメルが武骨な夫を好演している。
【シネマひとりごと】
本作のヒロインはクレマンティーヌ・ドゥレという実在女性がモデルだ。コミック作家ペネロープ・バジューによる女性偉人伝『キュロテ 世界の偉大な15人の女性たち』には、中国史上唯一の女帝・武則天や、『ムーミン』の作者トーベ・ヤンソン、人種差別と戦った黒人歌手ジョセフィン・ベイカーなど錚々たる有名人が名を連ねている。そのなかでドゥレは、巻頭を華々しく飾る立役者だ。髭を生やしていただけで偉人と呼ばれるのは少々疑問があるが、19世紀当時、まだ女性の地位が低く、表立った行動は慎むべき風潮があるなかで、ドゥレは自分の思うがままに生きた革新的な女性だった。第一次大戦中は前線兵士の間でアイドル的な人気を誇っていたらしい。ドゥレは多毛症のコンプレックスを逆手に取り、自らのカフェを「Le café de la femme à barbe(髭女のカフェ)」として売り出し大成功した。彼女の逞しい自己肯定に共感した監督ジューストは、その人生を大胆に脚色して独自のドゥレ゠ロザリーを作り上げている。ジューストは前作『ザ・ダンサー』でも、実在の女性舞踊家ロイ・フラーの人生を映画化したが、このフラーも本作のロザリーも、周囲の冷たい視線などどこ吹く風の、やや空気を読まない少々イタい孤高の人物として描かれている。実在のドゥレは好きなことをして、晩年は歌と踊りの余生を送ったらしい。一方、本作のロザリーは人生の暗黒面を直視し、波乱の道筋を辿る。『ザ・ダンサー』でも、ダンス場面は美しく、暗闇に発光しながらはばたく蝶の舞のごとく感じられたが、本作も写真家出身のジューストらしく、画面の深い陰翳が際立ち、きわめて見ごたえのある映像である。