映画『パリの恋人たち』
映画『パリの恋人たち』
© 2018 Why Not Productions
+ 監督・主演(アベル):ルイ・ガレル Louis Garrel
+ マリアンヌ:レティシア・カスタ Laetitia Casta
+ エヴ:リリー=ローズ・デップ Lily-Rose Depp
2019年12月13日(金)よりBunkamura ル・シネマほか全国順次公開
配給:サンリス
[公式HP]http://senlis.co.jp/parikoi/
フランスの人気俳優ルイ・ガレルの初監督作品。パリの男女の恋愛模様を軽やかに、またミステリー風味を加えて〈ヌーヴェル・ヴァーグ〉を思わせるタッチで描いている。
ジャーナリストのアベルは、3年ほど同棲している恋人マリアンヌから妊娠を告げられる。だが、お腹の子はアベルではなく、アベルの友人ポールの子だと言われ、マリアンヌとは別れる。数年後、ポールは急死し、アベルは葬儀でマリアンヌと再会する。そして、かつての想いが甦り、まもなく彼女の家に住むようになる。ところがマリアンヌの幼い息子ジョゼフは、父ポールを殺したのは母だとアベルに告げ、アベルは疑念に苛まれる。そんなとき、ポールの妹エヴがアベルへの長年の恋心を打ち明け、マリアンヌはアベルに驚くべき提案をもちかける。アベルはその提案を受け入れるのだが……。
ルイ・ガレルの実の妻であるレティシア・カスタが、本心の知れないヒロインをあっけらかんと演じ、一方、ジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの娘、リリー=ローズ・デップが主人公にストーカーじみた愛情を募らせる娘エヴを怪演している。ルイス・ブニュエルとの名コンビで知られるジャン=クロード・カリエールが脚本を担当。原題はL’homme fidèle(貞潔な男)。
【シネマひとりごと】
現在36歳のルイ・ガレルは、20歳も年上の女優ヴァレリア・ブルーニ=テデスキとの関係をいつのまにか終わらせ、モデル出身だが5 歳年上で3人の子持ちのレティシア・カスタと結婚していた。本作では、厚顔ともいえる女性たちの言動に啞然としてみせる、トボケ演技がいい味を出している。愁いを帯びた眼差しの美男路線で人気だったルイ・ガレルだが、今回は名優ファブリス・ルキーニばりのポカン顔を頻発し、2人の女性に気圧されるやや情けなくも魅力的な男を演じている。さすが年上キラーの本領発揮だ。原題のL’homme fidèle は、不実なことを平然とやってのける女性に対する「貞潔な男」という皮肉もあるのだろうが、あっちにフラフラこっちにフラフラと、運命にあらがわず女性を渡り歩くさまは、貞潔というよりバカなの?と笑いを誘う。この中身のからっぽな貞潔な男が、一枚も二枚も上手な女性に翻弄されながらも最後に真実の愛に気づく……という物語。だが、推理サスペンス風のひねりもあり、また、ひどくませた子どもの描き方も秀逸だ。
前号で紹介した『シュヴァルの理想宮』では、垢ぬけない農民娘に扮したレティシア・カスタが、本作ではパリのお洒落なアンニュイ女を好演。また、中二病的な片思いに一人で盛り上がるリリー= ローズ・デップの狂気の愛にもゾーっと引く。モデルとしてはともかく、女優としてはイマイチなリリーだったが、母ヴァネッサ・パラディから受け継いだ三白眼が、本作ではホラーかと思わせるほどの凄みを帯びている。彼女の新境地を拓いたルイ・ガレルの監督としての力量は確かだ。ルイの父親はヌーヴェル・ヴァーグの継承者と呼ばれるフィリップ・ガレル監督だが、ルイは父親よりもスタイルにとらわれず、より一般受けする継承者になったといえるだろう。随所にポップな演出が光る、あなどりがたい快作だ。
◇初出=『ふらんす』2020年1月号
*『ふらんす』2020年1月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。