2017年4月号 『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
© 2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR – STUDIOCANAL
『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
2017年3月25日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、
ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
+ Réalisatrice Maïwenn
+ Tony Emmanuelle Bercot
+ Georgio Vincent Cassel
+ Solal Louis Garrel
配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル
公式HP : http://www.cetera.co.jp/monroi/
一昨年のカンヌ国際映画祭でエマニュエル・ベルコが女優賞を獲得した話題作。人気個性派俳優ヴァンサン・カッセル扮する破天荒な男との10 年にわたる激しい愛を綴った映画である。
女性弁護士のトニーはスキーで事故をおこし、リハビリ施設で過去を振り返る。10年前のある夜、トニーはジョルジオと出会い、あっというまに恋愛関係になる。やがてトニーは妊娠し、二人は結婚する。ところがジョルジオの元恋人アニエスが自殺をはかり、ジョルジオはアニエスのもとに通うようになる。息子が誕生したのちも、ジョルジオは別の部屋に女を引き入れたり、派手な生活を続ける。一方、裏ではコカインを手放せない気弱な一面もあった。トニーは、舞い戻っては裏切るジョルジオとの生活に疲れ、ついに離婚を言い渡す……。監督は女優でもあるマイウェン。辛い結婚生活の中にあった幸せの時間を思い出すヒロインの姿と、そのまなざしの変化を繊細に描いている。タイトルの『モン・ロワ』は「私の王様」の意。
【シネマひとりごと】
監督のマイウェンは本名マイウェン・ル・ベスコ。本作でヒロインの弟の恋人役をつとめるイジルド・ル・ベスコの姉である。この姉妹、女優としては主役級ではないが、姉妹そろって個性的な容貌で映画に忘れ難い印象を刻みつける。とりわけ印象深いマイウェン出演作は、ラリユー兄弟監督の『愛の犯罪者』だ。本国フランスではヒットしたが、日本では映画祭のみの公開で、マチュー・アマルリック主演の記憶に残る傑作サスペンス。魔性の女に溺れるアマルリックがはまり役で、そのファム・ファタルを演じたのがマイウェンである。どことなく血の通っていないマネキン風の雰囲気を漂わせ、この手のタイプが大好きなリュック・ベッソンから目をつけられたのは当然の流れだった。かくしてマイウェンは17 歳でベッソンの子供を出産したが、その後ベッソンは『フィフス・エレメント』で主役に迎えたミラ・ジョヴォヴィッチに乗り換え、マイウェンは精神的に不安定な時期に入る。その経験がきっかけになったのか、彼女は監督業に力を入れ始め、監督三作目『パリ警視庁:未成年保護特別部隊』(邦題はひどいが、中身は保証つきの面白さ!)で、カンヌ映画祭の審査員賞を受賞した。『モン・ロワ』は、マイウェン監督独特の、複数の登場人物のセリフがかぶる演出が多少ヒステリックに感じられるが、身勝手なダメ男をモン・ロワ(私の王様)と呼ぶにいたるヒロインの強さは、マイウェン監督自身を投影しているのかもしれない。
◇初出=『ふらんす』2017年4月号
◎『ふらんす』2017年4月号に抜粋対訳シナリオを掲載しています。