ANIMAL ぼくたちと動物のこと
映画『ANIMAL ぼくたちと動物のこと』
©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021
監督:シリル・ディオン Cyril Dion
出演:ベラ/ベラ・ラック Bella Lack
ヴィプラン/ヴィプラン・プハネスワラン Vipulan Puvaneswaran
ジェーン・グドール/ジェーン・グドール Jane Goodall
2024年6月1日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
配給:ユナイテッドピープル
[公式HP] https://unitedpeople.jp/animal/
ドキュメンタリー映画として異例の大ヒットとなった『TOMORROW パーマネントライフを探して』のシリル・ディオン監督の記録映画。動物絶滅を食い止めるために世界を巡る旅に出た16歳の二人の環境保護活動家たちの試行錯誤を追う。
ロンドンに住む少女ベラと、フランスに暮らす少年ヴィプランはともに16歳。二人とも環境保護のための抗議行動やデモに参加してきたが、多くの人々に声が届かないもどかしさを感じていた。そんなとき活動家でもあるディオン監督に声をかけられ、気候変動と種の絶滅という大きな問題の解決策を探ることを決意する。
この40年で多くの生物が絶滅し、脊椎動物はかつての4割程度に減ってしまった。二人は古生物学者を訪ね、5つの原因を知る。気候変動、外来種の出現、環境汚染、乱獲、生育環境の破壊。これらすべては人間の利益優先によって自然のバランスを崩したためだ。
二人は欧州議会で議員に疑問をぶつけるが相手にされない。畜産農家では不当に飼育されるウサギを目の当たりにし、その現実に憤りを感じつつも行き詰ってしまう。二人は解決策を見出せるだろうか…? 動物や自然の危機を突きつけられると同時に、若き活動家たちの必死の行動に希望を与えられる美しい映画である。
【シネマひとりごと】
環境活動家というとスウェーデンのグレタさんが真っ先に思い浮かぶ。小さな身体を怒りに震わせ、いつも叫んでいる印象だが、本作の16歳のベラとヴィプランはあまり怒りを表に出さない。年齢不相応な落ち着きと老成ぶりに驚かされる。だが、この二人が養兎場経営主に、人間は肉や魚を摂りすぎている、僕たちはヴィーガンだけど健康には何の問題もない、と感情を露わに言い放つ場面もある。ヴィーガンとは、ベジタリアンよりもさらに厳しく、動物や魚の肉だけでなく、卵や乳製品などの動物性食品もダメという完全菜食主義の人たちのことで、俳優のナタリー・ポートマンや歌手のビリー・アイリッシュなどが有名だ。だが、意識高い系として海外のセレブの間でも実践する人が多い。根本に動物愛護精神はあるものの、スタイル保持や健康上のきっかけでヴィーガンになる人もいる。それに比べて動物愛護精神のみで肉を絶対に食べないことを貫いているのはブリジット・バルドーだ(とはいえ魚は食べるそうだが)。皮革製品を一切持たない徹底した動物愛護家で、しばしばその抗議活動と行き過ぎたふるまいがニュースになっている。イスラム教やレユニオン島の生贄の動物をめぐっての過激な発言や、韓国の犬食文化を批判し、人種差別だと訴えられることもあった。本作の少女ベラが言うように、憎悪をぶつけることでは共感は得られない、ということを身をもって示している、ある意味果敢な人だ。
一方、ディオン監督の主張は前作『TOMORROW…』から変わらない。動物や環境を守れない人間を声高に糾弾したり、地球滅亡のカウントダウン開始、のような恐怖を煽ったりはしない。環境と生態系を人間の少しの配慮で修正していく方法を提示するだけだ。食べるな、とは言わず、食べ尽くさないようにしようと働きかけている。自然界の動物は腹が満たされればそれ以上は食べない。買い占めや備蓄をする人間によって生態系のバランスが崩される。この映画を見ると、ヴィーガンは無理でも、ゆるいベジタリアンならやってみようかという気にさせられる。これこそ監督が導きたい方向なのかもしれない。