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中条志穂「イチ推しフランス映画」

映画『パパは奮闘中!』

+ 監督:ギヨーム・セネズ Guillaume Senez
+ オリヴィエ:ロマン・デュリス Romain Duris
+ クレール:ロール・カラミー Laure Calamy

2019年4月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

配給:セテラ・インターナショナル

[公式HP]http://www.cetera.co.jp/funto/

 人気俳優ロマン・デュリスの主演作。突然シングル・ファーザーになってしまった男の奮闘ぶりをリアルに描き出す現代フランス版「クレイマー、クレイマー」である。

 オンライン通販の倉庫で働くオリヴィエは、妻と二人の幼い子供と暮らしている。残業は毎日のようにあり、職場の労働状況は厳しいが、仲間から一目置かれるリーダー的存在だ。だが、家のことは妻に任せきりだった。そんなある日、妻が何も言わず家を出ていってしまう。オリヴィエは仕事のかたわら、慣れない子供の世話で四苦八苦する。母親や妹が手伝いにきて、子供たちの寂しさが紛れているうちは良かったが、妹がいなくなると、下の娘が口をきけなくなってしまう。だが、仕事が忙しすぎて、その娘の治療にも満足にかかわれない。やがて、子供たちが行方不明になり、オリヴィエは窮地に立たされる…。父親として葛藤しながら成長してゆく姿をロマン・デュリスが好演し、新境地を開いた感動作である。原題はNos Batailles(僕たちの戦い)。

【シネマひとりごと】

 フランスのみならず日本でも人気の高いロマン・デュリス。とりわけハンサムというわけでもなく、スタイルもごく普通なのだが、どことなく色気があり、どんな役でもこなしてしまう器用さも持っている。

 年齢とともに父親役も増え、オルガ・キュリレンコと共演した前作『ザ・ミスト』でも、デュリスは父親を演じた。パリの街を謎の有毒の霧が襲うパニック映画で、彼は難病の娘のために奔走する。パリの街並みが屋根のみを残して霧に覆われるCG映像はじつにシュールで一見の価値があるが、ツッコミどころ満載のゆるい物語で、評判はいまいちだった。デュリスは川に転落したり、建物の外壁をよじ登ったりと、映画『キャスト・アウェイ』のトム・ハンクスのような髭ボーボーのサバイバル状態。別人かと見まごうほどだが、有毒の霧から逃れるためにパリの街を疾走する姿は、かつてセドリック・クラピッシュ監督の『ロシアン・ドールズ』で、彼が全裸でパリを走り回る場面を思い出させる。今回は幸いにも(?)服を着用、ご自慢のギャランドゥな胸毛は見られない。若かった彼も今年45 歳になり、ぐっと落ち着いた雰囲気で父親役もサマになっている。本作『パパは奮闘中!』では、父親になりきれない男という設定で、妻が子どもを置いて家出したという深刻な状況なのに、同僚の女性とうっかり関係を持ってしまう。よく言えば人間味たっぷり、悪く言えば節操のない甘ったれ男だが、この恋愛渡り鳥的な軽佻浮薄(けいちょうふはく)さこそがまさにデュリスの持ち味だ。弱みを魅力に転じる憎めない役者なのである。

◇初出=『ふらんす』2019年5月号

『ふらんす』2019年5月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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