白水社のwebマガジン

MENU

「アクチュアリテ 食」関口涼子

映画から、いかに生を味わうかを考える

Agnès Varda, Les Glaneurs et la Glaneuse, 2000

 今年からはじまる、食に関する映画のフェスティバルを紹介したい。その名も「Eatfilmイートフィルム」というイベントで、6月11日から14日まで、パリ18区の映画館「Le CiNeyル・シネ」で行われた。食がテーマではあるが、企画者は「これは食のフェスティバルではなく、ドキュメンタリー映画のフェスティバルです。わたしたちのことを語る映画に触れる機会なのです」と言う。「わたしたちは毎日何かを食べていますが、そのことについて深く思いをいたすことはあまりありません。しかし、歴史、所作、暮らし方など、実際は食から多くの影響を受けています。映画は、皿の上に乗った料理そのものよりもっと遠くを見ることを可能にしてくれます」

 こういった目的のもと、単なる料理がテーマの映画ではなく、いかに生を味わうか、それをともに考えるための10作品が選ばれている。

 製作国はフランス、カナダ、オーストラリア、アメリカ、インド、スコットランドと多様で、テーマも、フレンチガストロミー、世界の若い料理人のポートレート、新しい農業改革、調理師学校の若者たち、収容所のレシピ、発酵などバラエティーに富んでいる。多くはここ数年に作られた作品だが、アニエス・ヴァルダの「落穂拾い」など、食とわたしたちの関係を知るには欠かせない作品もこの機会に上映される。また、上映会後のトークだけではなく、作品にちなんだイベントもある。発酵を巡るドキュメンタリーの後に発酵食品の専門家や実践者を招いてのトークがあり、さらに発酵食の試食会を行ったり、チーズがテーマのドキュメンタリーにちなんでコーカサス地方のチーズを中心にしたメニューが供されるなど。

 この映画館自体この4月にオープンしたもので、パリ市と救世軍などをパートナーとし、1500平米の敷地に映画館だけではなく、農業と文化を結ぶアソシエーションの場「Jardin des traversesジャルダン・デ・トラヴェルス」を併設し、さまざまな文化をオリジンとする人々が集まるこの地区の出会いと交流の場になることが目的とされている。

 食と文化の関係を取りあげる試みはこれまでにもさまざまに行われてきた。食と文学、食とマンガ、食と音楽……。食がテーマの映画のイベントもあったが、これまでは、単に食べ物や料理が扱われている作品を取りあげるだけで事足れりとし、食というテーマが何を意味するのかを深く掘り下げることは少なかったように思う。フランス文化と食の関係は、食を単なる客寄せに使うのではなく、思考の対象にしようという新たなステージに入っているように思われる。

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2026年7月号

ふらんす 2026年7月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

白水社の新刊

「ふらんす」100年の回想

「ふらんす」100年の回想

詳しくはこちら

白水社の新刊

フラ語入門、わかりやすいにもホドがある![決定版](音声DL付)

フラ語入門、わかりやすいにもホドがある![決定版](音声DL付)

詳しくはこちら

ランキング

閉じる