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「アクチュアリテ 食」関口涼子

新たなシテ・ド・ラ・ガストロノミ

 この春、ブルゴーニュ地方のディジョン市に「シテ・ド・ラ・ガストロノミ・エ・デュ・ヴァン(ガストロノミ・ワインセンター、以下「シテ」とする)」がオープンした。6,5ヘクタールの敷地には、展覧会場、レストランやブラッスリー、ブルゴーニュ地域の名産品を扱う商店街、料理専門書店、映画館などが立ち並んでいる。料理学校のフェランディ、ホテルヒルトンも併設されている。ブルゴーニュワインの試飲教室や料理教室に参加することもできるし、子ども向けのワークショップもある。


ディジョンにオープンしたシテ・ド・ラ・ガストロノミ
© Ville de Dijon / François Weckerl

 ただ、こう書くといかにも良いことづくめのようだが、実はこのプロジェクトは苦い失敗の体験を背負っている。シテ建設の企画は、そもそも2010年にフランス料理がユネスコの無形文化財になったことを受けて立ち上がったものだ。当時は、フランス料理をさらに文化・芸術の域にまで高め、教育や研究ともつなげていく画期的なプロジェクトと期待された。パリだけではなく、フランスの四都市にシテを建設するという企画も魅力的に思われた。しかしディジョンの前にオープンしたリヨンのシテはコロナのあおりを受け、2020年7月に開館わずか1年にして閉館に追い込まれた。運営の失敗が理由で、内容が貧弱な割に入場料が高く、集客につながらなかったのだという(ディジョンのシテは入場料無料)。外郭団体に丸投げにしたことが失敗の原因の一つだとも言われており、現在は、リヨンのシェフたちや自治体の梃子入れでシテ再建に向け新しいプロジェクトが練り直されている。

 パリのシテ・ド・ラ・ガストロノミは2026年オープン予定で、サステナブルフード、食事の社会的な面を前面に出した場所になるというが、まだその詳細は明らかになっていない。今後開館予定のトゥール市のシテについても同様で、企画はほぼ眠っている状態だ。

 現在、食はエンターテインメントの一環として人々の興味を集めているが、単なる町おこし的な観光地のショッピングモールに留まってしまえば、長期間人々の関心を引きつけておくことはできないだろう。展示にしてもしかりで、しっかりとしたキュレーション力のあるスタッフが、資料の保存や講演会も含めた内容の濃い企画を立てていけるのか。明日の食卓への明確なメッセージを担った文化施設を築けるのは、ディジョンのシテが成功するかにかかっているとも言え、今後を皆が見守っていることは間違いない。

◇初出=『ふらんす』2022年8月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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