コロナ以後のフランスのグルメガイド
ガイドブックは常に現在を反映していることを要求される書物だ。毎年改訂が行われるのもそのせいだが、パンデミック以降、数か月先のことさえ確かでなくなってからは、ガイドブックにとっては厳しい時代になった。
ミシュランガイドブックのフランス版は、通常より発表が2か月遅れ今年3月に持ち越されると報じられた。これは昨年の評価が、レストランが営業停止など例外的な状況下にある中、必ずしも公平に行われなかったという批判を受けてのことだろう。半年間で、通年と同じ量の調査をしなければならなかったのだから無理もない。
20年前に創刊、ビストロブームやワインバーブームなど様々な仕掛け人となった『ル・フーディング』は、数年前ミシュランに買収されてから迷走していたが、昨年はコロナ下の顧客の要望に応えてか、パン屋やチーズ屋、コーヒー豆専門店、魚屋や肉屋(もちろん全て環境に配慮した取り組みを行っている店舗)などの情報をガイドブックに導入した。確かに外出制限下、美食に敏感な人々が最も必要としていたのは、高品質の食材を提供する店だったのだろう。こうした新しいカテゴリーの採用は、前年私たちの食生活の質の維持に貢献してくれた店に対する感謝であるとともに、パンデミックがまだ終わっておらず、いつまたレストランが閉鎖されるとも限らない不安を映し出しているのかもしれない。
11月最終週に昨年の結果が発表された美食ガイドブック『ゴー・エ・ミヨ』は、「今年の最優秀シェフ」に、ブルターニュのレストラン「コキヤージュ」のシェフ、ユーゴー・ロランジェを抜擢した。彼の父親、オリヴィエ・ロランジェも27年前にこのタイトルを獲得しており、親子二人が受賞したのは今回が初めてだ。最年少受賞だったのも話題を呼んだ一因だが、才能だけではなく、土地に根ざした料理を行っていること(肉を使わず、海藻の出汁などでブイヨンをとる)、農園、果樹園、ハーブ畑、パン焼き小屋を持ち、養蜂を行うなど、二代にわたり筋の通った料理作りを目指している部分が評価された。21世紀の新しいシェフ像としての姿勢を買うということなのだろう。どのガイドブックも、現在が確かでない中、現在と将来の両方に対するヴィジョンを打ち出そうと苦戦している。ガイドブックの模索は当分続きそうだ。
ユーゴー・ロランジェHugo Roellinger シェフ
© Anne-Claire Héraud
◇初出=『ふらんす』2022年2月号