2018年4月号 リヨン駅裏、期間限定の企画レストラン
パリ・リヨン駅裏の「グラウンド・コントロール」
レストランの機能には、美味しい食事を提供するほか、人と会うための場所、外出する楽しみ、スペクタクルの機会作りなどがある。すでに存在するそういったレストランのほかに、新しい試みをする場所が現れてきた。三ツ星レストランのイタリア人シェフ、マッシモ・ボットゥーラが、マドレーヌ寺院の地下にある大衆のためのレストランで新しい料理を提供するプロジェクトはその一つだが、リヨン駅の裏にある6000 平米のスペースを利用して2 月にオープンした「グラウンド・コントロール」は、今までにないオリジナルな企画だと言えるだろう。
コンテンポラリーアートの展示会場パレ・ド・トーキョーにも似た、天井の高いコンクリート打ちっ放しのこの場所は「自由と好奇心」を謳い、レストラン、ワインバー、コーヒーショップなどが並び、高品質の料理を、フードコートのように自由に注文できる。その他にも、特にここでは、食を通じた市民運動や連帯のプロジェクトを支援しており、難民の料理人をシェフとして3 か月から半年ごとに招聘するスペース、菜園、子どものためのスペース、オーガニックで地産地消の商品販売のコーナーなどを用意している。また、食に関する書店、展覧会スペース、ワークショップスペース、食に関わる人々や、アソシエーションに発言の機会を与えるウェブ・ラジオなど、消費だけではなく、自らが発信するツールを備えているのが特筆すべき部分だ。
提供される料理を作る際のゴミはコンポストにされ、フードスタンドも多くはリサイクル建材で造られている。オーガナイザーのLa Lune Rousse は文化関係のイベントを企画するエージェンシーで、4 年前から単発のイベントとして、モード美術館やパリ下町18 区のスペースでこのようなイニシアティブを行なってきたが、今回はフランス国鉄所有のスペースを借り、2 年間契約でこのプロジェクトを立ち上げることができた。
リヨン駅のすぐ裏なので、旅行の前に腹ごしらえをしに行くのもいいし、電車の中で読む本とお弁当を買いに行くこともできる。待ち合わせの場所として使うことも可能だし、何より、食に関わる様々な問題に意識的になれる刺激的な場所として、パリに来たら一度は足を運んでみる価値はあるだろう。
◇初出=『ふらんす』2018年4月号