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「アクチュアリテ 食」関口涼子

WAKAZE——日本人がパリでつくるSAKE

 日本酒ブームと言われるようになって久しいフランスだが、今年、更に新たな現象が現れた。パリ郊外、フランス語で言えばGrand Parisで日本人が作ったお酒が現れたのだ。

 WAKAZEの代表稲川琢磨さんは、日本酒市場を根本から広げたいと思い、このプロジェクトを立ち上げた。日本酒をワインやビールと同じく、世界中で作られ飲まれる飲み物にすることが目的だという。そのため、ワインと食文化が豊かなフランスを選んだ。

 「振り返った時、パリでお酒を作り始めたのが、日本酒が本格的に世界に出て行くターニングポイントだったなと思われるようにしたい」と語る杜氏(とうじ)の今井翔也さんは、 明確なヴィジョンを抱いて日本酒を作ってきた。東京は三軒茶屋での自家醸造を経て、フランスの気候や風土が醸すお酒を作りたいと、お米は南仏カマルグ地方の食用米「brio」を使用。今までフランスで日本酒を作る場合、輸入認可が難しく高価な精米機をどうするかという問題があったが、WAKAZEに使われているお米は磨かないことで、米の旨みを残す。水はもちろんフランスパリ地方の硬水。白麹を使うことによって、爽やかな酸味の際立つ味わい作りに成功した。


パリ郊外の酒蔵で麹を醸す今井さん
©wakaze sake

 今年商品化されたのは、純米酒、フランス産のレモンとヴェルヴェーヌを発酵過程に取り入れた「ボタニック」、そしてブルゴーニュの赤ワイン樽熟成の3種類だ。それぞれ、食中酒、アペリティフ、デザートやチーズとなど、フランス人の暮らしの様々なシーンに合わせて楽しめる。

 地元フランスでの酒造りにより、輸入される日本酒よりずっと手に入れやすい価格に抑えることにも成功した。和食にもフランス料理にも合う、毎日気軽に飲んでほしいこれらのお酒は、人に例えれば「情も深いけど凛としたところがある女性」かな、と今井さんは言う。

 「日本酒の美味しさだけではなく、お米文化の深さ、その可能性の大きさを知って欲しいんです。フランス料理ではどうしてもお米は添え物の位置付けなので。パリ近郊に蔵を作ったことで、多くの人に蔵見学をしてもらうのが可能になると思います。直に日本酒の製造工程を見れば、酒粕や麹の世界を実感できると思うんです」。若いスタッフの意気込みを感じる、これからの展開が楽しみな「パリの蔵」の誕生だ。

◇初出=『ふらんす』2020年4月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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