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「アクチュアリテ 食」関口涼子

ファッション、アート、ガストロノミの三位一体

 ハイブランドは以前からモデルや有名人などを起用することで自らのイメージ作りを図ってきた。そして最近では、プラダ、エルメス、ルイヴィトン、バリーなどのようにアート財団を立ち上げたり、アーティストとのコラボをおこなったり、イヴ・サンローランのように時にはフランスの公的な美術館とのコラボレーションを行なったりして、自らのブランドの価値づけを図っている。

 この、ファッションブランドとアートという関係に、最近ではガストロノミが第三の柱として参画しつつある。ラグジュアリーの一端を担うシャンパーニュ業界ではその傾向が強い。19世紀末すでにアルフォンス・ミュシャにポスターを依頼しているルイナールはアーティストとシェフとのコンビで個性的なディナーを行なうことで知られているし、ポムリーは毎年自社の敷地で展覧会を開催、ペリエ・ジュエは、アートブックのコレクションを立ち上げ、作家や哲学者などの書き手とアーティストとの本を出版している。ワイン業界ではシャトー・ラ・コストは安藤忠雄建築の建物、屋外には現代アーティストの作品を並べ、オスカー・ニーマイヤーのパヴィリオン内でアート展を開いている。シャトー・パルマーはアーティスト・イン・レジデンスを企画し、ボルドーのシャッススプリーンは作家にワインラベルの文章を依頼している。自らのアートコレクションを持っているシャトーは枚挙にいとまがない。

 逆に、ブランドの方からのアプローチとしては、シャネルがポルケロール島の葡萄畑を買収し、元クルッグのセラーマスターを招いて自社のワインを作り出した。同じ島では現代アートセンターのカルミニアック財団が、美術館を取り囲む広い敷地の中に葡萄畑を持ち、ビオディナミでワインを作っている。


カルミニヤック財団が所有するワイナリー


カルミニヤック財団が製造するビオディナミ・ワイン

エマニュエル・ウンガロはプロヴァンスの自らのオリーブ畑でオリーブオイルを生産しているし、ボッテガ・ヴェネタは、パスタやワイン、パティスリーなどイタリアやイタリアで修行を積んだ世界の職人をフィーチャーするキャンペーンを始めた。

 ワインやシャンパーニュのブランドとしては、アルコール飲料ということもあり、飲酒を推奨するような宣伝はしにくいので、アートの力を借りて自らのブランドのイメージアップを図るのは理想的な方法なのだろうし、ファッションブランドやアートの財団としては、葡萄畑や職人、手仕事のイメージを利用して自然や歴史とのつながりを感じさせようということなのだろう。ファッションブランド、アートにワイナリーやガストロノミが加わり、三つ巴のようにお互いがお互いのイメージの恩恵を受けようとしている。保険会社や自動車会社などに単なる投資の目的で買収されて味が落ちるワイナリーがあることも考えると、イメージを大事にするブランドが手がけた方がいい、と捉えるべきなのだろうか。

◇初出=『ふらんす』2023年1月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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